フード風土 60軒目 お食事処 おかめ

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。

変哲もない定食のありがたさ

2年余りに及ぶコロナ禍は街と私の日常を変えた。いつもの店の定食も、顔なじみとの宴席も、仕事帰りの一杯も控えめにするうち、マスク着用と同様なんとなく慣れてしまった。繁華街やオフィス街を歩けば、廃業や移転の張り紙が目につく。

だが地元民が行き交う街では今、コロナ前の日常が戻り始めている。生活に近い分、街の形状記憶が強いのだろう。思わぬ災厄にも簡単に押し流されない変わらなさがある。

園田で愛される「おかめ」もそう。看板に「一品おかずケースのある店」と掲げる食堂を夕方早くに訪ねると、既に満席の居酒屋状態。みんな刺身や小鉢を並べて機嫌よく飲み、向かい合ってしゃべっている。コロナの名残は、開け放った入口と各席のアクリル板ぐらいか。

「緊急事態の時は時短営業、お酒を出せない時は休んだので一時は売上が四分の一になりましたけど、今年1月からはいつも通りですね。毎日13~14時間働く生活に戻ると、時短の頃は体が楽やったなあと、今はもうコロナが懐かしい」

店主の杭田好弘さん(62)はそう言って笑う。1970年に母親が開いた店を継いで約40年。煮物やうどんのだしは母の味を守りつつ、メニューに各種定食やカレーを取り入れ、店の規模も大きく広げてきた。

おかずケースには、刺身、煮魚・焼き魚、煮物などの小鉢が毎日20種類。各種定食のほか、うどん・そば、丼ものも一通り。

一番人気のおかめ定食620円は、だし巻きと小芋煮、豚汁にご飯。おかずケースから鰻のかば焼き、タコとキュウリの酢の物、カレー肉じゃがと冷奴を取り出し、編集長の若狭健作氏と分け合って飲む。

取り留めのない会話。空いてゆくジョッキとお銚子。酔客の心地よい喧騒。当たり前の日常が戻ってきた安堵に身を浸し、杭田さんに聞いてみる。今はもう少なくなったこういう食堂を長く続けてこられた理由やコツはありますか。

「うーん…特にこだわりや気負いはないですねえ。ただ毎日変わらず同じようにやっていくことでしょうか」

今回で60軒目となる当連載の取材で、たびたび聞いてきた言葉。そんな「変哲もない日常」を書き留めたいのだと、30回を迎えた12年前に書いた。

後日昼下がりに再訪して自家製カレーライス420円を食べた。開け放った扉の向こうに明るい陽と下校する児童の歓声。この街に戻ったいつもの初夏の風景がまぶしかった。■松本創


60軒目 お食事処 おかめ

東園田町5-41 園田中央商店街
9:00~21:00土休
TEL:06-6491-9572