THE 技 黄金比率で磨き上げた渾身の一球

最先端技術、職人技、妙技、必殺技…アマで繰り出すプロのワザに迫る

泥団子師の仕事

少し湿った土を両手で固く握り、丸く整える。乾いた細かい砂を一掴みしてまぶす。水分が抜け色が薄くなるまで繰り返す。表面が剥がれないように注意深く素手でこする。仕上げに柔らかい布で磨く。

これは泥だんご作りの“レシピ”である。子どものころ、夢中になったという方も多いのではないだろうか。

尼崎市役所のお隣、橘公園で泥だんご作りの名人から直に教えてもらえる「コーエンスイッチ」というイベントがあると聞き、これは面白そうだと駆けつけた。

橘公園には、両翼85メートルでナイター設備もあり、外野は天然芝、内野は黒土という立派な軟式野球場がある。主催者によると、この黒土が泥だんごに適しているとのことだ。

この黒土と砂を“6対4”の比率で混ぜ、少しの水でこねる。表面にまぶす砂は、公園の隅っこに集まっている細かい砂が適していて、砂場の砂はあまり良くないらしい。この秘伝の土を分けてもらい、冒頭の方法で作ると、1時間半ほどで仕上げの工程にたどり着き、表面がツルツルの泥だんごができ上がった。

名人はなんと、工場夜景の写真家で本誌連載(左頁)でもおなじみの小林哲朗さん。実は保育士として約10年間の経験があり、その時代に作った泥だんごを見せてもらった。

梱包用の“プチプチ”で何重にも保護された中から出てきた泥だんごは、手のひらサイズの大きなチョコボールのようで、光沢があり美しく、とても原材料が土と砂だけとは思えなかった。

作ってみて悔しかったのは、素手で磨く工程に入ったときに、表面の一部分がめくれてくること。これが厄介なことにどれだけ磨いても修正できず、めくれた部分がさらに拡大していく。こうなると、もう諦めてこの形状を受け入れるか、ボツにして最初からやり直す以外に方法がない。

しかし、小林さんはこね始めて10分ほどで表面の状態を見極めることができる。表面が割れそうだと見切りを付けて、新しいものを作る。これがうまく作るコツのようだ。どうやら最初に手に取った土をこねるときに、均一に混ざっていないとムラのようなものができ、それがやがて表面に影響するらしい。

このイベントは午前中の開催だったが、お昼を過ぎても多くの大人が黙々と作業を続けていた。大人も夢中になってしまう泥だんごには不思議な魅力がある。


取材・文/北村博志
元メカ設計者。今年で尼崎在住10年。「もう10年」「まだ10年」と感じる機会が増えてきました。