フード風土 47軒目 あたりや

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

「街の学校」で鉄板の焼き方を学ぶ。

「お好み焼き屋は街の学校だ」と力強くうたう本がある。大阪の編集者、江弘毅氏が「街的」な感覚とは何か、店になじむとはどういうことか、豊富な飲み食いの経験から考察した本だが、尼崎で「街的」に学べるお好み焼き屋と言えば真っ先に名が挙がるのが、出屋敷で67年目になる[あたりや]である。

自分で鉄板で焼くこともできる店だが、どうも焼き方に自信がない。この際きっちり教えてもらおうと訪ねてみた。

いか豚玉焼800円、いか豚そば焼750円。自分で焼くか、店の人に焼いてもらうか選べるが、最初は焼きのコツを聞くのがおすすめ。実は歌手でもあるご店主、サービス精神旺盛です。

店主は2代目の辻本晴夫さん(65)。小学生の頃から店を手伝い、長じて店を任された。「僕は5人兄姉の末っ子なんやけど、一番センスがええと親父に見込まれてね」という。先代も認めた名人の解説付きで、焼きそばからお手本を見せてもらう。

「まず豚肉とイカを炒めてから麺を一気に焼く。水は注がない。油だけでほぐす。麺を切らんようにさばくのがコツ」

「キャベツは最後。あんまり焼いたらシャキシャキの食感がなくなるやろ。うちは小さく切ってるから火の通りは早い」

「小さく切るのは麺と絡みやすいから。大きいとキャベツが端に残るやろ。あれはあかん。具も麺も一緒に食べな」

講釈をメモする暇もなく、あっという間に完成。焼きそばは大きな火で一気呵成に行くのだ。ソースと具が絶妙に絡んだ香ばしい麺に、「ちょうど冬のこの時季が一番うまい」という泉州産キャベツの甘みが加わる。

お好み焼きは対照的にじっくり焼く。あれこれさわらないのが一番のコツだという。

「鉄板に生地を広げたら、しばらく置いとく。あとは、じっとガマンの子」

「円の周りに豚肉の脂が染み出て、ふつふつしてきたら、そろそろひっくり返すタイミング。3回返したら完成」

「テコで真ん中押さえるのは絶対あかん。中の空気が逃げると、ふわっと仕上がれへん」

一度やらせてもらう。「テコ1本で返すのがプロ」というが、すいません、2本で……ほらっ、どや! ちょっと具が乱れたが、着地はまあまあか。60点ぐらいでしょうか?

「60点もないな。40点やな」

厳しいが、これが街の学校だ。何度も通って店の流儀を身につける。そのうち街や店の空気になじみ、溶け込んでゆく。

ふと見渡せば、この店の“先輩たち”がそれぞれ鉄板を囲んで楽しそうにやっていた。


47軒目 あたりや

竹谷町1-22
11:30~22:00
月休(祝日の場合は火休)
TEL:06-6413-1692