釣の話釣り好きに有名なムコイチに行ってみた。

「ムコイチ」「一文字」などと呼ばれる釣りの名所が尼崎沖にあるらしい。気になるので船に乗って行ってみた。

武庫川渡船
乗船料は大人2200円。女性、高校生、中学生、小学生と料金が安くなる。乗り場の売店ではえさや釣り具の販売のほか、竿の無料レンタルも。最近は河口のカセ釣りも人気。武庫川駅からの送迎もあるなど、釣り人にやさしい。詳しくは http://www.amagyo.com

宮本悦男さん
武庫川渡船の若き船長。漁師だった祖父が漁業権を手放してからはじめた渡船業を受け継ぐ。子どもの頃から大の釣り好きで、尼崎近海の漁場を知り尽くすプロ。

武庫川沿いの道を下り最南端へ。平左衛門町の先に「武庫川渡船」の乗り場がある。毎朝5時30分から1時間おき、繁忙期には30分おきに船が向かう先は「武庫川一文字」と呼ばれる防波堤。南西へおよそ2km、5分ほどの船旅で行き着いたのは全長4.5km、なんと日本最長の防波堤だ。

え? 尼崎沖わずか2kmの海でそんなに魚が釣れるんですか。「ここは大阪湾のどんづまり。川の水も流れてくるので栄養分が豊富で、全国的にも有名な漁場なんですよ」と武庫川渡船の宮本悦男さん(38)が教えてくれた。およそ50種類もの魚が今でも釣れ、関東からも客が来るという。「太平洋側は日本海より寄生虫が少ないんです。メジロやブリ、サワラ、最近はタコ釣りが流行ってますよ」という宮本さんの運転で、実際にムコイチへ渡った。

取材の日は風が強く、釣り人は少なかったが話を聞くと「京都からクルマ飛ばしてきました。尼崎に住んでたら仕事帰りに毎日来れるんでしょうね」とうらやましがられた。それほどよい釣りスポットということか。釣った魚はもちろん食べるという。「毎年水質検査もしてますが、完全に基準値より下。工業地帯の昔のイメージがあるかもしれませんが、今の魚は本当に美味しいですよ」という宮本さん。

釣果はリアルタイムで武庫川渡船ホームページに更新される。5月からタコ、7月からはタチウオのシーズンがやってくる。これは釣りをはじめないともったいないのかもしれない。

釣の話釣り人突撃インタビュー

武庫川と丸島の堤防はいわずと知れた釣りの名所だ。こだわりの釣り具と自家製のえさを持って集まる釣り人たちに話を聞いてみた。ところで釣れてますか?

“武庫川には10年は来てるなあ”
アダチさんは立花から毎週通うフカセ釣りの名手。1日でチヌ8枚を釣った記録写真を見せてくれた。「鳥が邪魔しよる」と言いながら、この日もすでに1枚。
“宝塚から週1~2回通っています”
ハネ(スズキの子)を釣りに孫と一緒に丸島堤防にやってきた榎本さん。「アジ釣ったことあるよ。お刺身おいしかった」という5才のとわ君もお気に入りの釣り場。
“ここやったらガソリン代かかれへん”
武庫之荘在住の中林さん。「昔は京都や福井に行ってたけど、こっちの方がよう釣れる」と20年近く通うベテラン。こだわりブレンドの撒き餌でチヌを狙う。
“風向きで釣場を変えられるのもここの魅力やな”
丸島防潮堤の先端を陣取る佐村木さんは大阪から丸島に20年以上通うベテラン。チヌ、ハネ、スズキ、夏はタチウオ、アジ、サヨリとなんでも狙う。
“グレやガシラが釣れることもありますよ”
大阪生野区から週1回丸島へ来る星さん。朝6時から餌がなくなるまで続けるチヌ釣りの醍醐味は「引きが面白い。味は鯛とかわらん」のだとか。
“いつもは和歌山まで行ってたけど”
ぬかだんごをこねてチヌを狙う紀州釣りの新田さんは、大阪阿倍野から通う。3年前に友人から教えてもらった武庫川堤防は「家から一番近い穴場」と絶賛。

釣の話創業70年 老舗釣具屋

武庫川駅から南へ徒歩1分にある釣具屋「武庫川釣具センター」。昭和22年創業の老舗の開店は朝の3時と早い。「量が多くて安い」という評判を聞き、餌用のシラサエビを求めて遠方からも客が来る。店内には「近所の中学生が作った」という棒浮きを販売していたり、釣り人からもらった魚を近所の誰かにあげたり、と魚を通した独特のコミュニティが続いているようだ。

店主の桜井さん(71)は2代目。「このあたりは汽水域ゆうて淡水と海水がまざるからどっちの魚も釣れる」と桜井さんは武庫川の水辺環境を誇らしげに語ってくれた。「初めてならハゼ釣りがおすすめやな。2~3000円あったら道具そろえて釣り方教えたるで」と頼りになる。

武庫川に釣り人が殺到していた時代

店内に貼られていた1994年10月の武庫川の写真。「この頃バカ釣れして釣り人が殺到や。でも翌年に震災が起きた。なんかの予兆やったんかもしらんな」と桜井さん。