神主のぶらり街歩き

連載第30回 たくさんの魚の中をぶらり

阪神尼崎から出屋敷の間にある寺町周辺には、たくさんの魚がいる。「えっ、川も海もないのに‥」と思われるかもしれないが、少し視線を上にすると確かに魚はたくさんいる。有名なタイ焼き屋さんも多いが、それではない。その魚とは懸魚。「けぎょ」と読む、神社や寺院の屋根に取り付けられた妻飾りのことだ。

例えば、貴布禰神社の場合、南門、本殿、拝殿、境内社に至るまで懸魚だらけ。確認のためぶらりした寺町でも、ほぼ全寺の本堂や山門などに懸魚を見つけることができた。その形は様々だが、建物が切妻屋根か入母屋造りの屋根であれば必ず付いているそうだ。

ではなぜ懸魚が取り付けられるのかというと、棟木や桁の先端を隠す装飾板であること。そして火に弱い木造建築物を火災から守るため、水に縁のある魚の形をした飾りを屋根に懸けて火除けのまじないをするのだ。確かに神社仏閣は古い木造建築物が多く火が怖い。ちなみに天守閣のてっぺんの鯱(しゃち)も、災禍を避ける願いが込められて取り付けられているという。

この懸魚、木製のため、長い年月風雨にさらされると朽ちてくる。当社の南門の懸魚はもとの形をとどめておらず、先日とうとう落下してきてしまった。すぐ下の塀の屋根瓦が砕け散るほどの衝撃だったようで、「ギョギョ!」としたが、人に被害が及ばなかったことが不幸中の幸いだった。

魚の形をした飾りとされるが、実際には魚感はあまりなく、その形から鏑(かぶら)懸魚・三ツ花(みつばな)懸魚・梅鉢(うめばち)懸魚などと呼ばれるそうだ。ちなみに当社境内社の白波稲荷神社の懸魚は、「猪目(いのめ)懸魚」と呼ばれるもので、猪の目(ハート型)の穴がくり抜かれているのが特徴。さらに懸魚に取り付けられた六葉にもハート型の穴がくり抜かれており、ハートだらけの「愛のあふれるお社」として白波稲荷神社を一生懸命宣伝中だ(自分でいうと価値はないか‥)。

今号のテーマである「魚」に合わせにいってしまった無理やり感満載の「懸魚」。でも神社やお寺のこんな“まサカナ”楽しみ方があることを覚えておいてくださいね。


江田 政亮 えだ まさすけ
だんじり祭り、地域寄席…いつでも尼崎人にオープンなお社きふねさんの第17代宮司。「国道43号線にだんじりを走らせたい」と南部再生への想いは日々強まる。ラジオ番組「8時だヨ!神さま仏さま」(FMあまがさき毎週水曜日夜8時~)も好評放送中。podcastも。