3時の働くあなた

園田競馬場

厩舎付近で20分ほど並足(ゆっくり歩く)の後、馬場に出てきた20分ほど走る。角馬場、内馬場、本馬場と徐々にスピードを上げていく。その後、同じく20分かけてクールダウンする。騎手は主に馬場での調教にかかわる。

平成29年2月12日午前3時。西日本に大雪をもたらし、強い冬型の気圧配置となったこの日の園田競馬場の気温はマイナス1度。「ハッ、ハッ、ハッ…」馬場を走る馬の鼻息は白い。園田競馬場では週1日の休みを除いて、毎夜午前2時から朝8時まで、競走馬たちの調教が行われている。

明け方。この日は前夜の雨もあって、馬が駆けると自分の脚で掻いた砂が塊となってお腹に当たる。それを嫌った馬が急旋回。騎手は振り落とされたが、幸いにも足から着地できたので大事には至らなかった。「年に2回くらい落ちてますね。今日は今年初です(笑)」

調教を終えて、園田競馬場所属の騎手のなかでも今年に入って活躍が目覚ましい若手一番の成長株(広報部談)という山田雄大(ゆうた)騎手に話を聞いた。

競馬場に関わる騎手、調教師、厩務(きゅうむ)員などの生活は実に不規則だ。園田競馬場に所属する競走馬は約500頭。そのうち350~400頭の馬が毎夜、順番に調教を受けている。騎手が行う調教は1頭あたり約20分。15頭受け持つとおよそ5時間はかかる計算となる。

競馬開催日の第1レース発走時刻は午前11時前後。午前9時から馬場の整備に入るので、開催日はもちろん、開催日でなくても、午前8時頃には全て終えられるよう真夜中から調教を始めざるを得ないのだ。

できるだけ多くの馬に乗ることにしている山田騎手は、この日、他の騎手よりも多めの18頭を調教した。その日の競走馬の息づかい、毛ツヤ、足取りの軽重を確認しながら、最初の5~10分は小走りでウォーミングアップ、残りの時間はレースに向けた訓練を行う。ギャロップというレースさながらの走り方をして心臓を鍛える馬、ゆっくり走りながら筋肉を鍛える馬とメニューは様々だ。

「最初は下のクラスで『大丈夫かな』って思いながら調教していた馬が、調教を重ねて重賞を獲るまで成長してくれると騎手冥利に尽きる」と語ってくれた。華やかなレースは騎手の仕事のごく一部で、彼らにとっての本番はこの真夜中の調教にあるのだそうだ。山田騎手が騎乗する競走馬は概ね20頭。記録をつけている訳ではないが、全ての性格やクセ、状態だけでなく、いつの何番目のレースでどの馬に乗ったかまで記憶している。数をこなし、経験値を高めている証拠だろう。

自らの騎乗スタイルは、ムチをよく打ち馬に厳しく接する、いわゆるアタリがきついタイプだという山田騎手。「アタリがキツいということは性格はSですか?」の問いに、「Sですね。でも…馬だけですよ」とはにかみながら答えてくれた。

この日のお夜食
「なし」

騎手は体重が軽い方(概ね50キロ)が有利といわれており、騎手のなかでは比較的身長が高い山田騎手は特に体重に気を遣う。調教の合間に厩舎に用意された「うまい棒」などのお菓子をたまにつまむことも。


取材・文/立石孝裕 たていしたかひろ
ATTF(尼崎・トゥ・ザ・フューチャーカード)ゲームマスターで尼崎市職員。今回は担当の永井さんが飲み会とバッティングしたため登板しました。