海の話帰ってきた尼崎の魚たち

魚がいなくなったと思われていた尼崎の海や運河に、魚たちが帰ってきていた。

水深1mのカゴに入っていたウナギ。

道意町にある北堀キャナルベース。柵から水中へ垂れ下がったロープを、少しずつ静かに引き上げる。黒ずんだカゴが水面に姿を現すと、固唾をのんで見守っていた子どもたちが歓声をあげた。「ウナギだ!」

「尼崎の運河は魚にとって過酷な環境だと思っていたので、驚きました」と話すのは、観察を企画した竹山佳奈さん。五洋建設の環境事業部に所属し、この観察のために毎月東京から通っている。その竹山さんが引き上げたのはボサカゴという。木や竹の小枝を束ねて水中に沈め、隠れ家として集まった生き物を捕える伝統漁法のひとつだ。これを水面から1mと3mの深さに設置して、中にいる生き物の観察会を2016年5月に始めた。

「尼崎運河に着目したのは、全国的にも屈指の過酷な環境だからです。生き物を通して環境を知るバロメーターでもありますね」。運河と海は尼ロックで隔離され、海流による水の入れ替わりがない。さらに夏場は、プランクトンの死骸を分解するために水中の酸素が使われ、生き物は水面下1~2mの浅い部分でしか生きられない。自然の力による回復が難しい場所なのだ。

にもかかわらず、観察会ではチチブ、クロダイ、スズキ、シロメバルなど多くの魚が見つかった。黒潮に乗ってきたのか、熱帯性のクロホシマンジュウダイも…。強い流れがなく、外敵も皆無と言っていい環境。竹山さんは「酸素が少ないリスクさえ除けば、ここは稚魚たちにとってマングローブの森や潮だまりのような存在なのかもしれませんね」と笑う。

酸素不足のために、水底から逃げ出して護岸にしがみつくハゼの姿を見て以来、小さな生き物の隠れ家を兼ねた生物共生護岸の構想を温めている竹山さん。「次は、産卵場所を探したり、運河全体にどのような魚がいるのか調べてみたいですね」と意気込んでいる。

月に1回の引き上げの日。
DIYショップの材料でつくったボサカゴ。
見た目はハゼのようなチチブは環境の変化に強い。
熱帯の海から流れてきたクロホシマンジュウダイの稚魚

五洋建設
東京に本社を構える大手建設会社。空港の滑走路や港湾施設など臨海部の土木工事や建築を得意としており、自然との共生を考える中、尼崎運河の生き物観察会を自主的にはじめた。

鯉の話庄下川コイ物語

ギョギョ魚!なんですか、コレは。尼崎の真ん中を流れる我らが庄下川、国道2号に架かる玉江橋から見下ろすと、うじゃうじゃと寄ってくる黒い影。でっぷり太ったコイですよ、鯉の群れ。人影と見るや、パンくずが貰えるのかと、あちこちから集まって川面に大きな口をパクパク。

実は、この鯉は川がキレイになった証。尼崎が公害に悩まされていた高度成長期、庄下川にはヘドロが溜まり、メタンガスも発生。異臭を放つ川はとても魚が棲める環境ではなかったのですが、水質浄化に励んだ結果、武庫川の伏流水と変わらない水質となり、悠々と鯉が泳ぐ姿が見られるまでに。

20年ほど前、甦った庄下川を記念して開催された「水まつり」では、なんと錦鯉を放流したこともあったとか。今では、ちょっと見かけませんけどね。

歌の話「尼崎の魚」という曲があった。

京都出身のロックバンド「くるり」の曲に『尼崎の魚』というタイトルがある。1998年に発表されたこの曲について、作詞作曲を手がけた岸田繁さんに聞いてみた。

●この曲ができたいきさつを教えてください。

随分前のことなので忘れましたが、猪名川か何処かの河川敷で釣りをしているおじさんを眺めながら作ったメロディーを基に、大学の部室でメンバーとセッションしながら作りました。テンポがころころ変わったり、コード進行が凝っていたりと複雑な構成の楽曲ですが、すんなり出来上がった印象があります。

●タイトルにもある尼崎の印象を教えてください。

工業地帯ですが、案外のんびりした風景も少なくない印象です。「つかしん」がオープンした時に、家族で遊びに行ったのはいい思い出です。その時初めてハーゲンダッツのアイスを食べました。鉄道マニアの私にとっては、阪急伊丹線や阪神西大阪線の印象も強いです。

●この曲に関する反響などがあればお聞かせください。

くるりは「東京」という曲でデビューしました。京都のバンドやのに 笑。そして、シングル盤「東京」のB面が、この「尼崎の魚」でした。京都のバンドやのに 笑。

元々は、この曲こそがくるりを代表する曲のひとつでした。くるりにしか出せないオリジナリティー、という部分で、今も自分達の中では大切な「試金石」のひとつです。しかし、都市名が2つもタイトルに入っているデビュー・シングルって凄いな、と我ながら思います。またそのうち、尼崎に遊びに行ってみようと思います。

そんな岸田繁さん率いる「くるり」結成20周年のオールタイムベストアルバム『くるりの20回転』に『東京』を収録。