THE 技 アンクル船長が県尼高で培った編集技術

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

無類の船好きとして知られ、サントリーの「アンクルトリス」や、300冊を越える装画を手掛けた柳原良平(1931~2015)。彼が尼崎の高校に通っていた縁にちなんだ関西初の回顧展が開かれる。

船との出会いは柳原が8歳のとき(1939年)。船の絵葉書を京都で購入したのがきっかけだったようだ。友人の寺田君と船の模型作りに熱中するも、戦災で西宮の自宅が全焼し趣味の中断を余儀なくされた。

1944年に兵庫県立尼崎中学に転校してからは、美術部に籍をおきながら、船への情熱が再燃し、船舶同好会を結成した。同好会の機関紙「航跡」にとどまらず、旧友の寺田君とは「商船」「ANCHOR」の2紙を発行。装画から執筆、レイアウトなどほぼすべてを1人でこなしている。

「商船」は、柳原が社長を務める架空の造船会社「株式会社音羽商船」の刊行物という体裁。新造船の図面をいち早く入手し、実物より早く模型にするのが生きがいだったようで、制作中なら「建造中」、完成すれば「進水」としてニュース記事を書いている。休日には天保山や神戸へ出かけては船を見学し、キャビンや甲板の詳細なスケッチとともに紹介している。虚構と現実が入り混じった構成なのだ。

展示企画を手掛ける尼崎市立総合文化センターの学芸員、妹尾綾さんは「船舶の見学で知識を、機関紙づくりで画力、文章力、構成力などを鍛え、その後生涯続ける仕事の基礎をこの頃身につけたのではないでしょうか」と語る。そう聞いて改めて「商船」の表紙を見てみると、船の一部を大胆にトリミングした構図やカラフルな着彩に、のちのグラフィックデザイナーとしての萌芽を見るかのようだ。

「アンクル船長と大阪南港」(2010年頃)

船の量感を巧みに捉えた「あかがね丸」のイラスト。

煙突と通風筒を堂々と描いた「商船」表紙(1948年4月発行)。発行部数は1部のみだった。

カメラがないためにスケッチしたという興運丸のレポート。

「柳原良平 アンクル船長の夢」
2017年5月20日(土)~7月9日(日)10:00~17:00(入館は16:30まで)火休
尼崎市総合文化センター5階 美術ホール
一般800円 シニア700円 大高生600円(中学生以下無料)
主催:公益財団法人尼崎市総合文化センター TEL:06-6487-0806


取材と文/綱本武雄
その昔、船長になろうと小型船舶免許を取りましたが、久しぶりに見たら失効していました。