マチノモノサシ no.10 尼崎の駅前駐輪場事情

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

棄てられる放置自転車1日28台

市域がほぼ平坦な尼崎市では、自転車ほど便利な移動手段はない。最近では環境面からも見直されているエコな乗り物だけど、駅前の放置自転車は頭の痛い問題だ。

市内に13ある駅前は、どこも毎日、路上駐輪があふれている。昭和58年に制定された「尼崎市自転車等の放置の防止に関する条例」では、各駅の半径300m内が放置禁止区域になっている。尼崎市交通安全課は「公共空間の安全確保」を理由に、毎日撤去作業に奔走していて、その台数は年間2万7117台(平成19年度)にも上るという。

手順はこうだ。まず、禁止区域に停められた自転車に警告シールを貼る。それから「まもなく撤去を開始します」と放送。20分待って持ち主が現れなければ、撤去。市内5カ所の保管場所へ運ぶ。さらに、防犯登録シールから所有者を特定し、保管場所を知らせる通知文を送る。職員が直接電話もかけることもある。その後1カ月経っても持ち主が現れないと、ついに廃棄処分だ。まだ十分使えるものや新品同様のものもあるが、平成19年度は1万478台がスクラップになった。1日平均28台。エコな乗り物のはずが…。

費用も馬鹿にならない。市はこれらの対策になんと、年間2億4000万円をかけている。だが、撤去された市民からは「人のものを勝手に取るな!」といった怒りの電話が、1日に何十件もかかってくるそうだ。なんとも悩ましい話だ。

いたちごっこの撤去作業。担当者はどう見ているのだろうか?市交通安全課の和佐田洋さんは「お金を払って停めることに抵抗がある人が多いようです。無料の駐輪場があるのが一番ですが、用地がないので…」。特に放置自転車が多い武庫之荘駅前では、一時預かりは常に満車、定期利用は2カ月待ちだという。圧倒的に駐輪場が足りないのだ。

そんな中、阪神尼崎駅周辺では、一昨年に完成した「路上駐輪場」に全国から視察が相次いでいる。前輪を入れるとロックがかかり、最初の90分は無料、以降8時間ごとに150円が課金される機械が478台、歩道に並んでいる。道路法施行例の改正で、道路上に駐輪場を設けることが認められたため、歩道を拡幅して整備した。「用地がない」という悩みに対する一つの回答だ。

管理運営は、商店主らで作るまちづくり会社「TMO尼崎」。市や警察との協働事業だが、民間事業者が運営主体となる例は全国で初めて。当初は「搬入の邪魔になる」と反対の声もあったが、「この街をきれいにしたいという想いを根気よく伝えました」と伊良原源治事務局長。設置から2年。稼働率は上々で、有料での利用も増えているという。

どこの街も悩み深い放置自転車。解決の糸口は、行政と地元が一体になった「ご近所のチカラ」にあるのかもしれない。 ■尼崎南部再生研究室

南部各駅の年間撤去台数 5台に2台が廃棄処分に

平成19年度に各駅で撤去された放置自転車の台数と所有者が現れず処分された台数の内訳。駅によって実施回数が異なるため単純な比較はできないが、南部の処分率の平均は44.3%と、北部に比べて高い。

市交通安全課「平成19年度駅別撤去・返還・処分等状況表」より作成