THE 技 真似のできない手彫りの印影
ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る
手彫りのハンコは同じものが二つとないからこそ、本人の証明になる。「デューク東郷も契約にはハンコを使ってるんやで」と漫画『ゴルゴ13』の一コマを見せてくれたのは山口印判店の山口吉弘さん(61)。最近では、サイン化や押印廃止がすすんでいるが「ハンコは日本の文化、押すことで決意を示すという意義を大切にしたい」と話す。
一級印章彫刻技能士の資格をを持つ山口さんの仕事場を訪ねた。まずは極細の筆で朱墨を塗った印面に字を書く。といってもハンコは「裏字」。行書、篆書、古印、印相といった書体を頭の中で瞬時に反転させ、筆の運びも忠実に表現する。パソコンのフォントと違って、一文字一文字に味わいがある。
次に印刀という専用の刃物で掘っていく。象牙や水牛といった高価な材も多く、失敗できない真剣勝負だ。「手彫りの職人は技にこだわりを持っているから、自分が掘った印影はすぐに分かるよ」と胸を張る。
戦後、父が三和本通商店街に開いた店を中学2年から手伝い、修業を積み30才で独立。塚口さんさんタウンに自店を構えた。父の店を兄が継ぎ、尼センにも支店を構え、尼崎とのつながりは深い。
「ハンコは人生の節目に作るもの。だから“一生もの”を提供したいんですよ」と山口さんはいう。時代は変わっても、「孫ができた」「子供が成人したから」と客がお店を訪れる。
取材と文/岡崎勝宏(おかざきかつひろ)
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。