フード風土 34軒目 カキウチお好み焼店

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

まかない精神が生んだ街の名物丼

まかない料理が珍重され、「裏メニュー」と称してオモテに出てくるようになったのは、いつごろからか。調べてみれば、チキン南蛮や天むす、一説によればオムライスも、もとはまなかいだったという。しかし、そういう洗練や進化、あるいは「グルメ情報化」の道をたどらず、本来のまかない然としたありようが愛される食べ物だってある。

お好み焼き、焼きそばとも豚かイカのみ(ともに250円)。「トッピング」なぞには目もくれず、極力シンプルに。そば丼に味噌汁と漬物を付けた定食は500円。

杭瀬中市場のお好み焼き屋[カキウチ]の「そば丼」350円がそうだ。どんぶりめしを覆う焼きそば。その上に半熟の目玉焼きが2つ。刻み海苔と紅ショウガをふんだんに散らし、味付けは特製ソースとマヨネーズ。「これぞまかない」なメニューは15年ほど前に生まれた。

おばちゃんたち数人で切り盛りするこの店。地元はもちろん、千船や大物、園田あたりからも買い物客が押し寄せた、かつての昼どきはとにかく忙しかった。市場に面した鉄板の前に長蛇の列ができることもしばしば。「回転を早くして、とにかく量をこなさなあかん。昼ごはんもありもので早く済ますのが第一でした」と店長の西谷晴美さん(62)。

とはいえ、毎日焼きそばかお好み焼きではさすがに飽きてくる。誰かがご飯に焼きそばを載せたところ、「卵も載せたら」「私はノリを」「マヨネーズも合うんちゃう」と次々に丼世界が広がっていったそうだ。なんと素晴らしきインタラクション(相互反応)。

いや、別々に食っても焼きそばとご飯は合うに決まっている。何が素晴らしいって、丼としての一体感である。トロリとした目玉焼きとマヨネーズが見事につなぎ役を果たし、やや甘めの特製ソースと相まって、マイルドな味わいで全体を包み込む。

玉子やキャベツなどは、市場で鶏卵や青果を扱う西谷さんのご実家から。このお好み焼き屋も、最初は青果店の延長で始まったのだという。「40年前、果物を使って生ジュースのスタンドを始めたんですけど、冬場にお好み焼きを始めたら、そっちの方がチャッチャカ売れて…」。

手持ちの材料で、手間をかけず、でも、状況に応じた組み合わせの妙でひと味違う一皿を仕上げる。そんな「まかないの精神」に店の歩みも貫かれているのである。


34軒目 カキウチお好み焼店

尼崎市杭瀬本町1-19-2杭瀬中市場内
10:00~17:00 木休
TEL:06-6481-2463