尼崎コレクションvol.10《トリネスコープカラー受像機》

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

東京五輪を映した最新型テレビ

[作品のみどころ] 文化財収蔵庫を見学に来るこどもたちに「これは何だと思う?」と問いかけると、ほとんどのこどもは「電子レンジ」と答えます。どうやら画面がレンジの覗き窓、チャンネルがタイマーに見えるようです。1から12までの数字を書いた円形のつまみがテレビのチャンネルであったことを知らない世代なのですね。

尼崎市立文化財収蔵庫の民俗資料室には初期の電化製品が何点か展示されていますが、その1点が写真の「トリネスコープカラー受像機6CT-333型」というカラーテレビです。日本でカラーテレビ放送が開始されたのは1960(昭和35)年のことでしたが、当初はカラー放送の時間が短く、カラーテレビも大変高価だったのであまり普及しませんでした。しかし、1964(昭和39)年の東京オリンピックを前に家電メーカーは安価なカラーテレビの開発に取り組み、オリンピックの前年に三菱電機が開発したのがこの「トリネスコープ」でした。このテレビは横幅よりも奥行の方が長いというちょっと変わった形をしているのですが、これには理由があります。この中には奥から緑・青・赤のブラウン管が3本も入っているのです。そして、この3本のブラウン管に映った緑・青・赤の単色映像を、ミラーによって光学的に重ね合わせてカラー映像とし、それが6インチの画面に映し出されるという仕組みになっています。白黒テレビのブラウン管を転用できたので価格を抑制することができましたが、それでも当時の科学雑誌の記事によると「初めて10万円台を切った」価格とのことでしたので、現在の価値では100万円以上ということになり、庶民にとってはまだまだ高嶺の花でした。結局、この方式のカラーテレビは普及しませんでしたが、高度経済成長期に日本の家電メーカーが真摯に新製品開発に取り組んだ結果、誕生した製品のひとつであったと言えるでしょう。

文化財収蔵庫

懐かしい生活用品も多数展示されている収蔵庫の開館は月曜日から金曜日の9時から17時30分。入館無料・予約不要●南城内10-2 TEL:06-6489-9801


桃谷和則
尼崎市教育委員会学芸員 3学期の文化財収蔵庫は「むかしのくらし」について学習する小学生の団体で大賑わいです。