続・ツクラナイマチヅクリ あの先進事例のまちは今…。ツヅケルマチヅクリを考える

新たに施設を作らずに地域の資源を上手く使ったまちづくりを紹介

【上段左から】南信州おひさまファンド(長野県飯田市)/商店街発アイドルユニット(山形県酒田市)/Save the下北沢(東京都世田谷区)/RENプロジェクト(東京都千代田区神田)/トロントダラー(カナダ・トロント)【下段左から】旧小熊邸倶楽部(北海道札幌市)/金森赤レンガ倉庫(北海道函館市)/横浜ドッグヤードガーデン/蔵造りの町(埼玉県川越市)/越後妻有アートトリエンナーレ(新潟県十日町周辺)


まちづくりにおいては、同じお金をかけるにしても、失敗した時に何も残らない企画やイベントよりも、誰が見ても視覚的に理解可能な施設新設にかけたほうが、計画段階においては大変ウケが良い。そんな感じだから、全国各地で「まちづくりのために」と称して様々な施設が作られてきたが、設立後5年以上たっても賞賛され続けている施設の話はあまり聞かない。陳腐化とそれに見合わない料金設定で批判にさらされているのが常である。

対して、施設を新設することなく、お金をかけずにまちづくりに取り組んで成功している事例もあって、最近はこうした試みが増えている。筆者は、以前『南部再生』11~21号にかけ、そうした全国各地の施設新設に頼らないおもしろいまちづくり企画・イベントを紹介していたが、そうした事例はあれから数年たってどうなっているのだろうか。

たとえば、北海道札幌市の「旧小熊邸倶楽部」は、歴史的建築物をなるべくお金をかけないで保存しようと、中身をカフェとして再利用することで費用負担と建物保存を両立させた事例である。先日久々に訪れてみたが、カフェにリノベーションして10年以上たった現在でも、客入りが絶えず、地域における観光名所として人気を博していた。そもそも外観が「地域の歴史を感じさせる古い建物」なので、経年と共に建物自体の魅力が陳腐化せず、再訪者が絶えないのだろう。

新潟県十日町市周辺で2000年から開催された現代アートの野外展覧会「越後妻有アートトリエンナーレ」は、何も無い田舎の田園風景を借景として、野外にアーティストたちが自分の作品を開催期間中にただ展示をしている、という変わった美術展であったが、一過性のイベントに留まることなく、継続して開催にこぎつけていった。現在では、参加者40カ国・入場者数37万人という大イベントに発展し、美術界においては世界的知名度も高いものとなっている。集客効果としては、美術館を新設するよりずっと安上がりであろう。

一方、斬新な企画として紹介した山形県酒田市のアイドルグループ「SHIP」。01年から商店街活性化のために地元の中高生が地域アイドルとして商店街でコンサート活動をしていたが、これは残念ながら06年で活動を休止してしまっていた。AKB48が秋葉原発の地域アイドルとして企画をスタートさせたのが05年だから、どれだけこの企画が早かったことか。SHIPのコンサートのためわざわざ東京から足を運んでいた人達は、今頃AKB48にお金を落としているのだろうなあ、きっと。


文・齊藤成人
金融機関勤務。通勤は阪神電鉄利用。次回からはLRTや空港などをここ尼崎で実際に作るとどうなるか、考えてみたい。