もう私、こればっかり描いてます アマの名物画伯

一貫して同じ題材を描き続けている人は「○○の人」と覚えやすく、時に顔や名前よりも雄弁だったりする。そんなテーマを持ってキャンバスに向かう画伯達には、もれなく運命の出会いと、求道者の赴きがあった。

[大根画家] こと 芝田順子さん

トラックの荷台に山積みになった大根。その一本一本を慈しむように特徴を捉え、葉の形や、むしろの編み目までもが詳細に描き込まれた100号の大作だ。塗り重ねて重厚な質感を出せる透明水彩を駆使し、3カ月から半年で描き上げる。芝田さんは、元々は自然の風景を描いていたが、河内長野市で無人販売の大根の山に出会って以来15年間、大根の絵3~4点を毎年公募展に出品し、数々の賞に輝いている。

こだわりは徐々にエスカレートし、関心は産地にも。「毎年収穫期には丹波の農家を訪ねて50本くらい買いますし、大量に吊るしていると聞いて宍粟市まで車を走らせたこともあります」。師匠からも「大根以外は描くな」と背中を押されるほどだという。

[女体画家] こと 三田耕之さん

まず目に飛び込んでくるのは、鮮やかなピンクの肌と5つの乳房。紅潮した顔は叫んでいるのかうめいているのか区別がつかない。でも、見る者を納得させる力強さがある…。「最初の頃は、やせた男性を描いていました。写実的に、モノトーンで。戦後の雰囲気でした」と三田さん。高度成長期の通勤ラッシュの光景に圧倒されて描いた作品を転機に、以降は生き生きとした人の姿をモチーフに。女体の絵は、その発展形だ。

描く上での持論は「色も形も自由でいい」こと。モデルを使わず、デッサンで蓄積したイメージを開放する。近年は日韓の美術家の交流展を開くなど多忙な日々を送る三田さん。目下の夢は「回顧展を開いて次のステップへ行くこと」と語る。