論:あまがさき回遊ミュージアム都市構想 大阪市立大学大学院教授 小長谷一之

尼崎は、いわば昔の首都圏たる近畿の西の玄関口であり、もともと山陽道・畿内の結節点としての非常に重要な位置にある都市である。そのため、平安期には、神崎・浜崎・今福・杭瀬、中世期には大物などの港が重要となり、そして近世には、大阪防衛の要として元和の戸田氏鉄の尼崎築城がおこなわれた。ところが近代になり、阪神工業地帯の要の一つとして大発展したため、工業都市の地層がさらに覆い被さっており、現在の都市イメージとしては後者の方が強い。しかし、実際は、重層的な歴史をもった万華鏡のような多面的都市なのである。

21世紀のポストモダン時代に入り、産業のハイテク化(PDP工場の誘致やエーリック等)と同時に、まちづくりのソフト化・観光化が非常に重要な要素となっている。欧米では工業都市の活性化が地域活性化の主人公になっている。そのようなところからも、尼崎は大きな可能性が沢山ある都市である。その理由をのべてみよう。

いろいろな資源が集結しはじめた

臨海部で「尼崎21世紀の森づくり協議会」や「NPO法人尼崎21世紀の森」が毎年おこなっている「うんぱく」での運河クルーズは素晴らしいものがある。臨海部にある工場の本当の正面玄関は、道路側でなく積み荷の出入りする運河側にあることに気が付く。まさに経済大国日本の内臓を見学するような迫力ある景色が面白い。こうした工場地帯のクルーズは、知的な雰囲気もあり、いま「工場萌え」などといってファンが増え、川崎市、堺市なども取り組んで大人気となっている。

歴史・文化関係では、阪神尼崎駅南側に広がる「城内」地区に、当時の城下町の町割りを残す築地地区や築城のため集約された11の寺院が集積する「寺町」、そして近代の警察署跡などがある。

商業・観光関係を見ると、中央・三和・出屋敷商店街が、メイドインアマガサキブランドのものづくり品や、商店街の物販・食品などいわゆる逸品戦略を展開、観光案内所や、アニメ「忍たま乱太郎」、トラグッズなどの資源がある。

観光集客の基本は時間と空間のシンクロ

観光案内所を設け観光・集客を考えているところだが、かといって自治体として大きな予算を組むことは難しい。「コストをおさえて差別化をする」という成功法則とともに大原則がある。それは、時間・空間・テーマを一致させる「シンクロ(同期)の法則」である。これまでばらばらにやっていたものを、(1)テーマを統一し(テーマの候補が複数でたら、別のプロジェクトにする)、(2)回遊可能なコンパクトな地域範囲でおこない、(3)同一日、時間に同期させること、が大事となる。

コストレスのまちづくりとして、筆者らの大学院で研究した平野郷の「町ぐるみ博物館」や「高槻ジャズストリート」の例などがある。平野の例を参考にすると、もともと歴史のある古いまちなので、各家に古い物がいっぱい眠っている。それを、無理に統率せず、ある一日を決めて展示し、各家が一日博物館、各人が一日館長(オヤマの大将?)になって始めたものである。

しかし、このときに「時間と空間とテーマの一致(シンクロ)」だけは大原則。なぜなら、このことこそ、来訪者(顧客)との「約束」に他ならない。お客は遠路はるばるやってくる。その時に時間・空間を一致させて、全部回遊できるようにする。これだけは守らないといけない。お客との「約束・信頼関係」の構築が「ブランド化」である。

「あまがさき回遊都市」をめざして!

尼崎では現在、個々の試みは優れているが連続性がない状況にある。これに対して集客理論の大法則を守ることで、コストレスで最大の効果があげられるのだ。そこで、毎月一回第何週かの日曜日を「アマ回遊日」とする。そして、図のように①中央・三和・出屋敷商店街」「②城内歴史文化ゾーン」「③運河ゾーン」と回遊計画をたて、この日に阪神尼崎~出屋敷・センタープール間の各地域のイベントを集中させる。

商店街では、尼ブランドや忍たまなどを中心に商店街イベントや特売をする。城内地区では、寺町ライトアップや忍者による案内、校庭などオープンスペースが多いことからJAZZストリートなど、音楽イベントで盛り上げる。赤レンガ建築や旧警察署など雰囲気があるところでもアートや音楽のまつり、ブルーノートなども誘致してはどうか。運河ゾーンでは、船を出す。ルートの案としては、21世紀の尼崎運河再生協議会(2008)などを参考に、蓬川→北堀運河→尼ロック→旧左門殿川→東堀運河などとする。色々な資源を結びつけてこそ、相乗効果で成功の法則に適うのである。

あまがさき回遊ミュージアム都市構想

【参考文献】
塩沢・小長谷編(2008)『まちづくりと創造都市-基礎と応用』晃洋書房
同(2009)『まちづくりと創造都市2-地域再生編』晃洋書房
21世紀の尼崎運河再生協議会(2008)『21世紀の尼崎運河再生プロジェクト基本計画』


こながや かずゆき

大阪市立大学大学院創造都市研究科都市政策専攻教授・東京大学空間情報科学研究センター客員教授。1959年生まれ。京都大学理学部、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了。妻の実家があることから尼崎市民となり、近年まで子供を育てる。城内をこよなく愛す。大阪府立大学・大阪市立大学経済研究所を経て現職。日本都市学会常任理事、GIS学会理事・土地利用・地価分科会副代表、毎日出版文化賞、日本都市学会特別賞などを受賞。著書に『都市経済再生のまちづくり』『21世紀の都市像』など。