尼崎コレクションvol.06《旧尼崎第二発電所の高圧タービンローター》

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

工都の記憶伝える産業遺産

[作品のみどころ] 長さ5メートル、重量6トンという巨大さだが、実際にはこの後ろにさらに10トンと35トンの二つのタービンが連なり、この3連タービンが1分間に1800回転することにより発電を行っていた。

尼崎市の南端に位置する末広町には、戦前における日本最大の火力発電所であり、工業の発展と公害の深刻化という工都尼崎の光と陰の両面における象徴であった尼崎第一・第二発電所が所在した。両発電所は、高度経済成長の終焉とともに廃止され、建物は煙突を取り外した状態で残存していたが、阪神高速湾岸線がその敷地を通過することが決まったこともあり、1986年10月から撤去工事が開始された。

現在では、文化庁による近代化遺産の重要文化財指定や登録文化財制度の導入、経済産業省による近代化産業遺産群の選定など、近代の産業遺産を保護していく制度が整備されている。しかし、産業遺産という言葉すらほとんど耳にすることがなかった20数年前。この年の4月に、学芸員として尼崎市に採用されたばかりの筆者が、工都尼崎の光と陰の象徴を一部だけでも残したいという一念で、関西電力神戸支店から尼崎市に寄贈していただいたのがこのタービンローターである。寄贈後はずっと屋外に防水シートで梱包して保存する状態が続いたが、今年4月に文化財収蔵庫が現在地に移転し産業資料の展示室が開設されたのを契機に、ようやく市民のみなさまにご覧いただくことができるようになった。20数年ぶりに梱包を解いたタービンローターは、錆の進行もあまりなく寄贈時とほとんど変わらぬ姿を見せてくれて、筆者はまさに「重い荷を降ろした」気分であった。

今、タービンローターは稼動・保存を経て展示という第三の人生?を送っているが、「うわー大きい」という観覧者の驚きの声を聞く毎日が結構気に入っているように見えるのは、きっと筆者の思い入れが強いからだろう。

文化財収蔵庫

巨大タービンローターをはじめ、弥生時代の出土遺物や、尼崎城と城下町に関する資料、工都を感じる大型産業機械、懐かしい昭和30年代の生活道具などが見学できます。開館は月曜日から金曜日の9時から17時30分。
入館無料・予約不要●南城内10-2 TEL:06-6489-9801


桃谷 和則(ももたに かずのり)
尼崎市教育委員会学芸員 先日、幼稚園児たちと一緒に尼いも掘りをしました。