THE 技 社寺の歴史を塗る熟練の左官仕事

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

西本社寺左官 50年になる熟練の技が求められ、「3年先まで予定が入っている」という。

左官仕事が見直されているらしい。自然素材ならではの風合い・安全性・吸湿効果が注目され、手軽に壁を塗れる材料も出てきた。が、手間要らず・スピード重視の風潮とは一線を画すのが社寺左官という仕事。

寺町にある本興寺の大改修で、こっ白の漆喰を塗る左官職人の西本忠春さん(65)は言う。

「いくら便利な材料が開発されても基本は変わらん。下地づくりに手間をかけんと、いくらきれいに仕上げても数カ月でヒビが出てしまうんですわ」

16歳から左官修行を始め、19歳で独立した西本さんは、姫路城をはじめ、関西や山陰でさまざまな現場に携わってきた。現在は潮江を拠点に、京都御所や妙心寺、西本願寺に高野山など錚々たる歴史建築を手掛ける。

「左官は難しいと言うけど、基本を知らないでするから難しいんですわ」と西本さん。左官の基本とは、たとえば、一度に塗るのは1cm以内。厚く塗り過ぎず、よく乾かす。下地の状態や気候を判断しながらコテを動かす…。「経験で覚える部分やから、説明しづらいけどな」。

コテを持つ時は「鼻先に力を入れるのではなく、後ろ側を当てるように意識すると水平になる。全ての指の第2関節がコテに当たる感じ」。だから、指の第2関節にできたタコは熟練の証しとなる。さらに、「漆喰はヨコにコテ押さえをする。セメントやモルタルは下から上へ塗り上げてから、ヨコに塗り重ねて…」と話は続いていく。

「職人は人生が終わるまで、いつまでも勉強。いつも明日の現場をイメージしてから仕事に向かってます」と西本さん。すべては「お客さんに喜んでもらえる仕事をするため」である。


取材と文/岡崎勝宏
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。