Amagasaki Meets Art その六 音楽に出会う

世の中に「アート/芸術」という言葉は溢れているけれど、いったいアートって何なのか?尼崎南部地域で出会ったいろんな「アート」を通して、考えてみる。

「煙突が並んだ運河の街」まちの記憶から言葉を紡ぐ

紙ふうせん 後藤悦治郎さん

音楽は最も身近なアートの一つ。普段何気なく聴いている曲の世界に引き込まれた経験はありませんか?

今回話をうかがったのは、尼崎市南部出身のミュージシャン、後藤悦治郎さん。平山泰代さんとのフォークデュオ「紙ふうせん」は、今年で結成30周年を迎える。後藤さんは「尼崎は渾沌としているけど、そこには人と人との深いつながりがある」という。映画雑誌をめくりながら、目に止まった銀幕のスターが神戸の街を歩いていたら…と仮定してイメージを膨らませたラブソングや、自然への憧憬から生まれたものなど、歌詞の題材は多岐にわたっている。しかし、やはり身近な存在である生まれ育った街・尼崎が題材となっている曲は、特別な思い入れがあるそうだ。

たとえば「ぷかぷか煙りを はいていた/煙突が並んだ運河の街/雨上がりの空に虹を見た/夢はきっとかなうと思ってた」という歌詞の曲『Route 43』とは、国道43号線のこと。後藤さんは、「家の窓から工場の煙突が見えたし、迫力のだんじり祭りは毎年楽しみやった。その頃は舟もよく行き交っていて、同級生に船上生活している子がおったんやけど、それに憧れててね」と、当時を振り返る。そのような子供の頃の記憶が、歌詞にも自然と表れてくるようだ。実体験を直接歌にするよりも、想像や記憶からヒントを得て、新しい世界を生み出すのが後藤さん流。この曲を聴いて、自分の思い出が蘇ってくる人も多いはず。

記憶を現在の感覚と交ぜながら言葉を紡ぎ、丁寧に作り出された曲に耳を傾ける。すると、メロディーに乗った言葉が心にスッと入り込み、様々な気持ちが沸き上がってくる。目にみえない「何か」が、自分の中の「何か」とつながる瞬間それは、あらゆる種類のアートの中でも生まれるはず!

紙ふうせん 30th Anniversary

ミリオンセラー「冬が来る前に」は70年代フォークの定番曲。現在も精力的にライブ活動を展開する。04年11月には30周年記念リサイタルが開かれた。


木坂 葵(きさか あおい)
1978年新潟県生まれ。アートNPO大阪アーツアポリアで、アートコーディネーターとして築港赤レンガ倉庫の現代美術プロジェクトに参加中