マチノモノサシ no.9 尼崎の生きもの調査

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

バッタの生息地10.7%増加

尼崎は工業都市だから昆虫や草花は少ない」なんて思っていないだろうか。実は、身近な生き物が10年前を境に増加傾向にあるという記事が今年5月、新聞各紙に載った。尼崎市中学校理科教育研究会などが行った「身近な生きものから見たあまがさきの自然調査」がそれだ。

昭和50年から断続的に続き、平成19年8月で5回目となった調査は、市域を500m四方の全228区画に分け、各区画で22種の生きものを見かけたかどうかを中学生たちに聞き、自然度を評価する。昨年は2510人が参加した。「この規模で、これだけの長期間にわたって続く調査は、ほかに例がありません」と市環境政策課の担当者は語る。

その結果、バッタやカエル、カタツムリなど10種類の生き物が前回より増えていた。区画数で見ると、バッタは196カ所で確認。10年前の調査時は177カ所だったから、占有率は10.7%増えたことになる。一方で、ヘビやツバメなど7種類は減少。ヘビに至っては、わずか3カ所でしか確認されなかった。また、調査は「よく(見る)」「時々」「見たことがある」「ない」の4段階で頻度も聞いているが、どの生物を見ても、相対的に北部の方が、南部より見かける頻度が高くなっていた。

「調査の精度はひとまず置いて…」と、昆虫の生態が専門の「兵庫県立人と自然の博物館」主任研究員の八木剛さんはいう。「猪名川流域を含む市北部の自然度の高さを改めて示す結果ですね。一方で、増えている生き物は、ほとんどが公園など人工的な緑地においても生きられる種類だという傾向が見られます」。

確かに、調査報告書を見ても第1回調査時に比べて公園面積は4割増えている。八木さんによると、公園や整備された緑地帯は一見緑豊かに見えても、地面が固く乾燥している。だから、その環境に適応できる生き物が増えた、ということらしい。

現場の実感はどうなんだろう。北部の農地で聞いてみた。

無農薬・無化学肥料の野菜栽培に取り組む「阪神有機農業研究会」の遠藤晃久会長は「土中のケラやミミズは確実に増えています」という。作物への影響を考えれば喜んでばかりもいられないが、「こっちの方が自然。今までが異常だったんだよ」。

調査結果を、南部の自然度向上にどう活かすか、という課題もある。工場の多い南部では、緑化などの取り組みは緒に就いたばかりだ。

たとえば、東向島の住友金属工業では、防波堤を兼ねていた外壁を撤去し、緑地帯に作り替える工事が進行中。将来的には全長1400mの緑化を目指している。計画を担当する田村善章さんは「21世紀の森構想に共感して始めた事業です。緑を再生し、生き物の種類が増えれば、社員や市民の関心も高まると思う」と話す。

環境学習の一環として始まった生きもの調査。中学生の取り組みを、市民全体の環境意識を高めるきっかけにしていきたいものだ。■尼崎南部再生研究室

バッタの生息確認地点

中学生たちがバッタを見つけた場所を、その頻度から回答。10年前と比べると、北東部の猪名川や藻川の周辺や臨海部でも自然度が増えているのが分かる。

「第5回身近な生きものから見たあまがさきの自然調査報告書」より作成