THE 技 キャリア70年 研ぎすました切れ味
ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る
「あそこで研いでもらうと切れ味が違う…」。そんな噂を聞きつけ刃物研ぎの「研正(とぎまさ)」を訪れた。店主の織田正義さん(90)は18歳から修行を始め、三和本通商店街の近くにお店を構え50年になる。
「技?そら、体で覚えるものでしょ。口ではうまく説明できん」と職人気質なお答え。ならば実際に体験しようと、愛用のノミを持参した。普段は筆者が自分で手入れしている刃先を、一目見るなり「ここが丸まって刃が出ていない。ノミはまっすぐ研がなきゃ、手首が動いているか、砥石が真っ直ぐじゃないでしょ」とズバリ。数日預けることになった。
お店には次々と人がやって来る。食堂の店主が、柄が折れて刃が錆びた出刃包丁を持ってきた。「これは50年は使えるいい包丁。刃が欠けているのは、冷凍ものでも切ったからでしょう。この割れ方は熱の膨張収縮でね…」と織田さんは刃物を見るだけで、使われ方が分かるのだ。
後日、お願いしていたノミを取りに再びお店へ。受け取ったのは新品のようにピカピカだ。さっそく使ってみると、サクッと気持ちよく切れる。おそるおそる刃先を触る。指にあたる細さが全然違う。
「研ぐ時の角度の基本は30度。ノミは真っ直ぐ、包丁は刃の曲がり具合にあわせて、ハサミは刃の裏で切るから反らして砥石に点であたるようにするんです」。刃物の形だけでなく、切る物や使われ方によっても研ぎ方を微妙に加減する。キャリア70年以上になる超熟練の研ぎ師に出会い、刃物の奥深さを実感した。
okamammoth
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。