マチノモノサシ no.8 尼崎の観光事情
尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。
年間観光客数269万7千人
「うちは今年も観光客数ゼロです」。その昔、尼崎市が兵庫県の観光調査に対し、こう報告していたことが当時の市議会で問題になった…なんて話がある。コトの真偽は別として、「観光」という言葉から連想するのはやっぱり、拝観料を払うようなけっこうなお寺や、入場料を取る史跡だったのだろう。工業都市として名を売った時代に、観光振興も考えろという方が無理な注文なのかもしれない。
最新の県の調査によると、尼崎には昨年(平成18年度)269万7千人もの観光客が訪れた、という。貴布禰神社や寺町界隈といった主要な社寺、市民祭りや市民マラソン、ピッコロシアターやアルカイックホールなどの来客数を合算した数字だ。対象施設には屋内プールやスポーツクラブまで含まれ、カウントも重複しているので、こちらも正確な実態とはいえなさそうだが…。
最近は「ツーリズム」なんて言葉をよく耳にする。「物見遊山だけでなく、訪れた人が地元の人と交流するような視点が重視されています」と社団法人ひょうごツーリズム協会の矢島正枝さんは、その定義を説明する。「いわゆる観光地ではない中山間地域でも積極的に取り組まれています。過疎化が進み、自分たちの街を残したいという切実な想いがあるようです」。人口減少の時代。「ツーリズム」でヒトやカネを呼び込もうと、どこも必死だ。
尼崎市役所でも具体的な動きが出てきた。「ちかまつ・生活文化・まち情報課」が誕生し、寺町界隈のガイド育成に取り組む。昨年から月に5~6回は周辺を案内するボランティアガイドの会長・中川雄三さん(63)は「やっぱり自分の街を案内して見てもらうのは気持ちがええね」と手ごたえを実感している。
日本で初めてのまち歩き博覧会『長崎さるく博06』に1000万人の参加者を集めたプロデューサー茶谷幸治さんは、こうした市民による「内需喚起」が大切だと強調する。「来訪者を受け入れることで、街をよく見せたいと景観づくりや地元住民の活動が活発になる。つまり、観光はまちづくりなんです」と。
尼崎商工会議所も昨年、工場見学を主体にしたツアーを実験的に開催。60人の募集枠に200人以上の応募が殺到し、大きな反響を呼んだ。「市内企業に協力を呼びかけ、ものづくりを『産業ツーリズム』としてとらえ直したい」と意気込む。
観光が活性化すれば、電車やバスの利用者、商店街を訪れる人、お店の売り上げなど、幅広いプラス効果が期待できる。「観光は裾野の広い産業ですから、非常に多くの側面で数字に影響を与えます。その中でも尼崎らしい指標を見つけていくことが重要になりますね」と茶谷さん。
新しいかたちの「尼崎観光」は可能なんだろうか。動き始めた「ツーリズム」が試金石になりそうだ。■尼崎南部再生研究室
尼崎市観光客入込数の推移 尼崎観光が急増?
2006年はスポーツの森のオープンや、JR脱線事故で中止された市民祭りの再開などにより観光客数が増加した。
兵庫県観光客動態調査報告書をもとに作成