社会人一年生

「僕らのあましん」の顔、地元の学校の先生、暮らしを守るファイアーマン…今年から社会へ飛び出した1年生たちは、はじめての経験にとまどいながらも夢と希望にあふれていた。尼崎期待の大型ルーキー3人が仕事への意気込みを語ってくれた。

尼崎信用金庫杭瀬支店窓口係1年生 中川知子さん(23) 「お客さまの顔をできるだけ覚えたいです」

「家中に粗品もあったし、小さな頃からすごく身近でした」と尼崎出身の彼女が、大学卒業後に選んだ職場は地元の信金「あましん」。狭き門をくぐりぬけ、昨年4月に入庫した。自衛隊研修や座禅修行といったユニークな新人研修を終え、配属されたのは開店から80年以上の歴史ある杭瀬支店。古くからの商売人や常連客が多いお店で、今年1月から新人テラーとして窓口に座る。「窓口から見る風景は今までと全然違ったんです。ロビーの空気がじかに伝わってきてすごく緊張します」

経験豊富な先輩の仕事ぶりを見ながら、今は日々自分の未熟さを痛感するという。それでも「『ありがとう』って声をかけてもらえると本当に嬉しい」と働きがいを感じつつある。働き始めて変わったことも。「お買い物に行っても、つい店員さんに頭を下げてしまうんです」。

県立尼崎高校教諭1年生 長谷川聡子さん(29) 「尼の子は人なつっこくて可愛いですね」

「あまり“新人”って思われてないみたいで(笑)」の理由は、きっとそのタフな経歴にあるのだろう。東京の大学を卒業後、青年海外協力隊として2年間、中国・長春にて日本語教師を務めた。その後、神戸の高校での講師を経て、晴れて今春、国語教諭となった。赴任校が尼崎と決まった時には、「尼の子はやんちゃやで」と助言(?)されることも。けれど、もともと下町が好きだったこともあり、「生徒と濃い関係を作れそうだし」と、むしろ幸運に思ったそうだ。

担任のクラスはないが、新任の研修を受けながら1年生の授業を週に13時間受け持つ。「人なつっこくて可愛い」尼っ子たちに向けられる、「“塊”ではなく一人一人のことを見てあげたい。授業の中だけでもできることがあるはず」という言葉には、地に足の着いた希望がこもっている。

尼崎市中消防署消防士 井木薫さん(26) 「日々の訓練を積んで人の役に立ちたいです」

消防士を志したのは、大学生のときに経験した交通事故がきっかけ。ヒザを負傷し、「二度と歩けないかもしれない」と絶望する井木さんを、駆けつけた救急隊員が励ましてくれた。以来、「人の役に立ちたい」との思いで、1年間の専門教育と3日間の採用試験を乗り切り、平成18年度、見事採用された。

消防学校で半年間の教育期間を経て、配属初日に経験した初の現場は忘れられない。慣れない20キロの装備が足かせになって部隊には置いていかれ、後続の誘導がやっと。焦りと緊張で過呼吸になり、空気ボンベも底をついた。「訓練したことが、何も発揮できなかった」。この悔しさが、常に備えるクセをつけた。日々の訓練はもちろん、現場へ迅速に駆けつけて被害を最小限に抑えるため、毎日違う道で帰宅しながら道を覚える。