フード風土 25軒目 エジプト料理 ピラミッド

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

ケバブから滲み出る尼崎愛

牛肉&ラム肉ミンチのバーベキュー(シシケバブ)1300円。バターライスも付き一皿で腹いっぱい

エジプトといえば、スフィンクスにツタンカーメン、ヒゲの吉村作治センセイ…と、ひと昔前のテレビっ子レベルの知識しか持たないが、この店では気にしなくてよい。尼崎で唯一、いや関西でも初だというエジプト料理の専門店は、その名も[ピラミッド]。

「エジプトの主食ってナニ」とか「イスラムだから豚肉は食べないんスよね」とかいった「イロハのイ」な質問にも、スキンヘッドの陽気な店主、ラエド・アリ・エルサイドさんが応じてくれる。軽妙なエジプシャン・ジョークを挟みつつ。

「クレオパトラになれるスープね」と出してくれたモロヘイヤのスープは、ほどよい粘りと軽いスパイスの香り。見た目から連想する青臭さは皆無、しみじみと豊かな味わいだ。ナイル川流域の肥沃な土壌は、多種多様な野菜や穀物、果物を育て、その味わいはとても濃厚だそうだ。「日本ではイチゴもクリも同じ味でしょ」と、ラエドさんは極端な例え話をするけれど、それほどエジプトの作物はモノが違うのかもしれない。

けれども、特別に珍しい野菜やスパイスを除いて、食材の仕入れ先は尼崎の市場や商店街だ。ラエドさんは、アマを深く知っている。というか、惚れ込んでいる。

来日間もない12年前、交通事故に遭い市内の病院に入院。退屈しのぎに病室を抜け出して歩いた中央・三和・出屋敷界隈にすっかり魅せられた。エジプトはじめ英仏蘭など多くの国に住んだが、「こんなに親しみやすく、歩いて楽しい市場はほかにない」と。だから、エンジニアから転身して店を開く時、迷わずこの場所を選んだ。

その尼崎愛は、チキンケバブサンドが昨年、メイドインアマガサキ準グランプリに輝き、晴れて成就したわけだが、この日のメインは、同じケバブでも牛肉とラム肉のミンチ。滲み出る肉汁、シンプルな焼き味、マイルドなソース。「うん、こりゃ大人のハンバーグや」とヒザを打つ。さらに、ピタパンに塗って食べる焼きなすのペースト。これがあっさり美味で、止まらない。

エジプトといえばピラミッド。アマといえば商店街。誰もが描くイメージを冠した店の、奥行きは果てしなく深い。


25軒目 エジプト料理 ピラミッド

神田南通1-23
12:00~15:00・18:00~21:00
日曜は12:00~21:00
月曜定休
06-4980-8254