フード風土 15軒目 山里食肉店

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。

沖縄流豚づくし コテコテ関西風味

使い込まれた鉄板の上、コテを軽快にあやつる山里さん。お店には沖縄名産の食材がずらり並ぶ物販スペースも。

「4本足なら椅子以外すべて食べる」とは中国大陸のあくなき食への探究心を表す言葉だが、沖縄ではこういう。「豚なら鳴き声以外は食べ尽くす」。テビチ(豚足)にミミガー(耳の皮)にラフテー(ばら肉)に…。いや、別に比べてどうという話ではなく、こんな言葉が定着するほど「沖縄人(ウチナーンチュ)と豚肉」は最強タッグであるという話。今回は豚だ。

JR尼崎駅の北、味気ない再開発ビルとだだっ広い工場跡地の横を抜けると現れる「山里食肉店」。看板に書かれた「ホルモン焼き」「沖縄物産」の文字がまぶしい。

夏の夕暮れ時。鉄板から立ち上る甘辛い香りに誘われるように、客足が増え始める。そう、豚肉一筋、「山里のホルモン」といえば、潮江界隈の住民が長年親しんできたスタミナ源。おやつにアテにおかずに。100g170円の手軽さもあって、完全にソウルフードと化している。

「学校帰りの中高生や、仕事終わりで一杯やる職人さん。主婦も多いよ。子どもにはちょっと辛いけど、野菜炒めに混ぜたりして食べさせるみたいやね」。わっさわっさとホルモンを手際よく混ぜながら、店長の山里浩さん(42)。

噛むほどに肉となじむタレは一子相伝の味。ぷるんとした歯ごたえを楽しむうち、口の中にはほのかな甘みすら。

「甘味調味料は何も使ってないよ。だしと豚から出る脂と。親父が沖縄の久米島から出てきた36年前から、毎日炊き続けた味がこれやね」

―と、おっちゃんが自転車を乗りつけて勢いよく叫んだ。「味付け4本!」。もう一つの看板商品になっているテビチ(1本220円)を受け取ると、ニコニコ顔で走り去る。ほかにも、「鼻の周辺がいちばんうまい」というチラガー(顔の皮)、茹でて塩だけで食べる肝、ぷりっと肉厚なタン(舌)…。

素朴で豪快。沖縄流豚肉メニューに息づく関西コテコテ下町の記憶。

「この辺も再開発やらですっかり変わったけど、うちは昔ながらの味で下町らしい商売をやりたいね」と山里さん。

ホルモンとテビチを買い、自販機でビールを調達した。近くの広場で新聞紙の包みを広げ、一人、夏の日暮れの小宴会。家路を急ぐサラリーマンに見せつけるようにかぶりつく、この幸せよ。■松本 創


15軒目 山里食肉店

潮江1-28-12
月曜定休
06-6499-3391