叫べ!まちの市場たち ICHIBA CALLING 第3回 生活市場ウィズ

もうけはないけど、届けます。「喜んでもろてナンボ」と言い切る覚悟

その店は「達人(Wizard)」という名を持つ。大庄の「生活広場ウィズ」。下町の雰囲気が残る住宅街の中にある、こぢんまりとしたスーパーだ。

生まれ変わった売り場には新鮮な食材が並ぶ

もとは昭和初期に創設された共栄市場。しかし時代とともに客足は減り、そこへ阪神大震災が襲った。半壊指定を受けた市場は平成9年に移転、スーパーとして再スタートを図る。反対の声も多く、計画に参加したのはわずか7人。小さな一歩だった。

翌年には宅配事業を始めた。電話でもファクスでも店頭でも、どれだけの品物を頼んでも手数料は100円。介護用おむつなら配達料はなし。これが当たった。お年寄りの単身世帯が多い地域に受け入れられ、大手スーパーがひしめく中で成長のきっかけをつかんだ。

実はこのサービス、ビジネスとしてのメリットはほとんどないという。しかし、あえて続けることで客との間に信頼関係ができた。それこそが何にも代え難いウィズの「宝」になった。

市場からスーパーへ。最初から順風満帆だったわけではない。セルフ方式の販売ノウハウもない。肉や魚という主要部門の入れ替えもあった。だが、リーダーの一人、打樋さんは屈託なく笑う。「商売人はお客さんに喜んでもらってなんぼ。芸人と一緒やで!」。大手にも中堅にも個人商店にもできないことを模索し続ける。

スーパーに代わっても、組合形式という市場の名残を見せるのも特徴。売り場ごとの責任者が仕入れから販売までを取り仕切る。市場時代は練り物職人でもあった打樋さんは、練り物売り場の責任者になった。「職人」を離れることに抵抗はなかったのだろうか。「私らは『売る職人』であることを選んだんや」。心意気はまさに「商売の達人」だ。

ウィズの店名には、もう一つの意味がある。「地域とともに(With)」。「今日はもうウィズ行った?」と挨拶を交わす主婦たち。「ウィズへ行くことが生きている証」というお年寄り。達人たちの願いは確実に地域に浸透している。


生活市場ウィズ

大庄北5-21-15


北條美代●ほうじょうみよ
1985年生まれ。大阪府茨木市で太陽の塔を眺めながら育った大学生