シヤクショも思わず自慢したくなる

住民票を取りに、食堂へ昼飯を食べに、苦情を言いに…理由は数あれど尼崎市民なら一度は行ったことのある尼崎市役所。窓がいっぱいあって、屋上にはよくわからんアンテナが立っていて、巨大ロボに変身しそうなこの建物、実は有名建築家の作品だって知ってました?

建築家 村野藤吾(むらのとうご)の仕事

心斎橋そごう百貨店・大阪新歌舞伎座・都ホテルなど多数の作品を残した日本を代表する建築家・村野藤吾。彼の手がけた建築がここ尼崎にも…。

村野藤吾(1891-1984)佐賀県唐津市生まれ
昭和を代表する建築家の一人として数多くの作品を残す。
大阪梅田、御堂筋のど真ん中にニョキニョキとそびえる換気塔も氏の作品。(1963年)

現存する初期の作品 大庄公民館

初期の建築にその人の全てが表れるという。村野が独立後初めて手掛けた公共建築が昭和12年の旧大庄村役場(現公民館)。階段に落ちる柔らかな光、長方形の構造物と自然の地形(当時は川だった)の接点が描くコントラスト、「方形」を意識した玄関のレリーフ。「秩序」と「遊び心」が溶け合い、抑えの利いた豊かな表現が感じられる。肩の力を抜いて普段着の時間を過ごしたい建物。いちど訪ねてみてください。

大庄武庫線と琴浦通りの交差点近くにある大庄公民館

市役所(建物)のココがすごい!

「微に入り細にわたって、ハシバシをおさえる。そうすると建物は自然にできあがる」建物の四隅の柱や壁のデザイン、光を取り入れる窓、さらには建物と人が出会う接点に、細心の注意を払う村野の仕事ぶりは、昭和37年に設計した尼崎市役所にも表れている。

たとえば、低層棟に配した飾りの白い柱は、窓やデッキとあいまって開かれた印象を受けるが、めぐらされた堀で近づく足はとめられてしまう。開放的に距離を保っている。あいまいで思わせぶりな感じ。

ココに注目!牛タン把っ手
村野作品の特徴の一つ、牛の舌型把っ手。見た目も手触りも心地よい、ディテールへのこだわりだ。

ここにはそんな村野作品特有の「心地よいモヤモヤ感」がある。

威厳を保ちつつも外の世界に開かれたその表現を感じるには、カーテンは開けておいた方がよい。絶対に。

階段を上る。見た目の細さに比べてしっかり掴める手すり。何気なく触れる部分にも細やかな心配りが隠れている。ホールのトップライトを感じながら、ついついゆっくり上ってしまうでしょう。


text:okamammoth