サイハッケン 象が踏んでも壊れない橋があった。
長く住んでいても意外と知らないまちの愉しみ。「へえ~」と目からウロコの再発見!
ディープサウスの魅力をご堪能ください。
享保14年4月19日、尼崎にゾウさんがやって来た。ベトナム人の象使いを乗せ、お侍や役人を従え、堂々たる行列ぶり。このために、街道筋では道路整備が義務づけられ、通行時に騒いで興奮させてはいけないなど、厳しいお触れも出されたほど。
新しもん好きの暴れん坊将軍、8代徳川吉宗のために、中国の商人が象を献上したこの逸話は「享保の象行列」と呼ばれる。ベトナムから長崎に着いたゾウさんと象使いは、江戸までの354里の道のりを73日もかけて歩いた。いや、歩かされたのだ。
「将軍さま、そら、むちゃでっせ」と当時の民衆が言えるわけもなく、時の権力者のワガママに従うだけ。はじめは、見たこともない巨大な動物におびえながらも、その巨体に似合わぬつぶらで優しい瞳に引き寄せられ、見物人がどっと押し寄せ、しまいにゃ、お弁当を持って象見物なんていうのどかな光景もあったそうだ。
象グッズを売り出す商人がいたり、イカダを並べて武庫川を越えたりと、当時の様子を想像するだけでも楽しい。何トンもある巨象が大黒橋を渡った当時の感動は、今も街の記憶として刻まれている。
のどかなお散歩コースになっている東町緑地。大黒橋跡の記念碑には、象さんの勇姿もしっかりと刻まれている。
小森利絵●こもりりえ
1982年生まれ、尼崎在住。フリーペーパー「れもんのき」発行人。