ツクラナイマチヅクリ 第9回 Save the 下北沢

新たに施設などを作らずに、地域の資源を上手く活用したまちづくりを紹介。

曽我部恵一(元サニーデイサービス)、岸田繁(くるり)。このミュージシャンらの共通点は何でしょうか。答えは「Save the 下北沢」という活動に賛同していること。東京都世田谷区下北沢を寸断しようとしている道路計画に対して展開する熱い反対運動にせまった。

冷静な計画分析とギター片手に熱く「ハンターイ」と歌う

下北沢。「シモキタ」と言ったほうがとおりが良いかもしれない。街自体は完全に都市開発から取り残されており、「行政的に言えば」決してきれいな街並みではない。ところが、東京都内においては住みたい街ランキングで常にトップクラスだ。

その魅力は、鉄道駅を中心とした半径200m以内の狭い路地に、昔ながらの商店街からこじゃれた雑貨屋や古着屋、そしてライブハウスや小劇場まで、数百の低層小規模店舗がごった煮状態でひしめき合っていることにつきる。いわば街自体が巨大なバザールであり、用がなくても簡単に何時間でも時間をつぶせる。筆者も「デートの場所に困ったら、シモキタでも行っておけ」というありがたい格言を頂戴したことがある。とにかく下北沢はごちゃごちゃしていることが最大の魅力で、それ故多くの人が集まってくる。そこに集まる人々が下北沢発の多彩な情報発信をすることが街のブランド化に寄与している、と考える。そんな街が、今、全国のまちづくり関係者の注目を集めている。街を分断する格好で幅26メートルもの巨大な道路をつくる計画が持ち上がっているためだ。

発表された計画では、駅前に大きなロータリーをつくり、今ある商店街を大きく分断する幹線道路を通す。歩行者の街として知られる下北沢に、あえて自動車交通を取り入れようとする意図は不明だ。おそらく人気があるエリアだから開発したい、ということだろう。開発しなかったからこその下北沢人気であるのだが、発想の順序が逆転してしまっている。

これに対して、地元住民が中心となって「Save the 下北沢」という反対運動を展開。何でも反対、反対とだけ言っている従来型の運動ではない。「道路計画に反対だが、道路をつくる効果として行政が考えていることを満足させるためにはこのような代替案が考えられるのではないか」ということを真摯に検討し、対案をホームページ上で公開している。詳しくはホームページをみていただきたいが、費用便益効果分析から周辺エリアの交通量調査など、実にマメに、そして冷静に今回の計画についての分析をしたうえでの反対である。その活動に、下北沢を愛する多くのミュージシャンらが賛同し、ライブなど反対イベントを行っている。こちらはギター片手の熱いパフォーマンスだ。

この道路計画に事業認可がおりるかどうかは、今年中に決着がつく。「Save the 下北沢」による、あえて道路をつくらないまちづくりが行政に受け入れられるかどうかはわからない。確実に言えるのは、道路をつくってしまえば、下北沢の持っていたブランド価値は破壊されるということ、そして、他の街と同じように開発された下北沢を好きな人はあまりいなさそうだ、ということだ。


齊藤成人●さいとうなるひと
日本政策投資銀行 調査役