論:既存のまち並みや産業遺産を資源に 日本政策投資銀行 調査役 齊藤 成人

まちづくりについて議論をしていると、いまだに「まちを活性化するためには、まちなかに再開発ビルを建ててにぎわいをつくるしかない」と考えている人がまだまだ多いことに気づく。確かに、再開発ビルは一時的には特効薬になり得るだろうし、これまでも大都市圏において、一定のにぎわいを創ってきた。しかし、この手法は中小都市におけるまちづくりの唯一の解と言えるのだろうか。

再開発が効率的手法?

一般に再開発ビルはイニシャルコストが多額であり、投下資本の回収には長期を要する。従って、初期投資の返済原資となるテナント賃貸料を安定的に確保するためにも、キーテナントの長期入居が不可欠な条件となる。ところが、再開発のキーテナントとなるべき大型商業店舗の退去リスクは、年々増加傾向にある。実際にキーテナントの退去が原因で、資金繰りに窮する再開発ビルは少なくない。もちろん、床を売却できれば良いのだが、最近の事例をみる限りでは、簡単には売却できない(売れ残った床は、たいてい事業を推進してきた自治体が購入している)。

かかる状況下でも、各自治体でまだまだ多くの再開発事業がすすめられているわけだが、果たして再開発をして、まちを「きれい」にすることが、最も効率的なまちづくりの手法なのだろうか。再開発事業をすすめると、それまで路面に露出していた店舗が再開発ビルの中に入るので、通りからにぎわいが消えるというデメリットがある。また、中小都市では、ビルの中に人を呼び込むだけの魅力あるテナントを確保するのも難しい。加えて、セットバックによって生み出された公開空地が、周囲に寂寥感を生み出すことさえもある。

まちづくりの基本は人

まちづくりの基本は「人」である。人を呼び込むことである。人はにぎわいを好む。最近の消費者の嗜好は、モノをただ買うだけということよりも、買い物を含めそのまちの雰囲気自体を楽しむことにある(モノを買うだけであれば、インターネットが最も効率的である)。従って、どこでも似たような店舗しか入居していない再開発ビルにはほとんど興味を示さない。目の肥えた消費者は、そのまちにしか無いパパママストアレベルの個性的なショップやコミュニティビジネス店舗を好む。古くからのまち独自の雰囲気を体験することを求め、狭い路地に足を向ける。

買い物だけではない。雑多な路地で行われる、地域性のあるイベントに参加し、自分の地域へのコミットメント意識を充足させることで満足する消費者もいる。

こうしたことを考えると、まちづくりでは、必ずしも新たな施設をつくったりする必要はなく、既存のまちなみや産業遺産を資源として活用したほうが効率的な場合もある。今あるまちそのものが、立派な観光資源だとまちづくりの担い手が認識すれば、まちづくり手法にも多くのオプションが加わり、地域住民の選択肢も広がるだろう。これは、感情的な意見ではない。財政的観点からも投下資本が少なく効率が良く、かつマーケティングの面からもしごく適当であると考える。

地域NPOの出番が

では、既存の地域資源を如何にして活用すべきか、ということであるが、それこそNPOの出番であろう。海外のケースでも、まちづくりNPOが、自から資金を調達しまちづくりに取り組んでいるケースが多い。少ない投下資本で効率よく地域資源を再整備し、自らの手でまちづくりを実施していくことが、地域で活動するNPOの腕のみせどころなのであろう。

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齊藤成人(さいとうなるひと)

1973年北海道生まれ。日本政策投資銀行 関西支店 企画調査課勤務(兵庫県担当)。現在の関心事は、産業遺産などの既存ストックを活かしたまちづくり。あまけんの活動から、いつも刺激を受けています。