フード風土 6軒目 酒の吉田屋

昼の日中に立ち呑み屋

ビールケースの脇をすり抜け狭い通路を進むと、奥に酒徒のにぎわいが

「立ち呑み復権、若者に人気」という記事を少し前新聞で読んだ。といっても、神戸は元町辺りのレトロなショットバーなどの話。OK、それもいいだろう。だが当方のフィールドは尼崎南部。しかも生活密着の、安くてうまいもんを探すのがミッションとくれば、こういう店に登場願うしかない。阪神尼崎駅前「酒の吉田屋」。酒屋併設の純本格立ち呑みである。

昭和30年代後半、出屋敷にできたアマで最初の立ち呑み屋。昭和43年、現在地に進出。時を経て、周辺の道路は広がり、前のバラック群は公園になったが、店構えは変わらないという。開店はなんと朝9時。壁に「夜勤明けにちょっと1杯」と張り紙がある。昔も今も、南部の工場で働くおっちゃんたちの憩いの場なのだ。

酒肴はほとんど500円まで。吉田さんお薦めふぐちりはやや豪勢で680円。自家製ポン酢は100ml 120円で販売もしている

昼下がり。ぶらりと店をのぞくと、常連とおぼしき数人がすでにほろ酔い加減。その堂に入った飲みっぷりを横目にカウンターの列に加わる。えっと、とりあえずビールとおでんか。それにきずしと。おお、鯨の赤身や生レバーもありますやん!

立ち呑みとしては破格といえる食いもんの充実ぶりはマスター吉田昌弘さん(64)のこだわり。「こだわりいうほどでもないけどな。自分が肴なしで飲むの嫌やねん」。仕入れはすべて三和市場で。「閉店間際に行けば料亭で出るような刺身も安く買えるんよ」とは、奥さんが明かす安さの秘訣。

「ちょっと食べてみ」と、ふぐちりの一人鍋を勧められた。引き締まった白身に昆布の旨みが染みている。スダチが鮮烈に香るポン酢は自家製。化学調味料は一切使わない。「化学調味料入れたら、すぐ味がボケる。これやと風味が長持ちするんや」。やはり吉田さん、こだわりの人。これからの季節なら、ナマコやオニオンスライスに。山盛りモヤシに豚バラ載せてレンジでチン!にも合うらしい。

立ち上る鍋の香りに辛抱たまらんといった様子で、隣のおっちゃんが身を乗り出してくる。「仕上げに雑炊するのがまたエエんや」。うんうん、もちろんですわ。最後まで行かせてもらいます。

ふと目を上げると、テレビではセンバツ高校野球の真っ最中。青春の汗と涙を尻目に、昼間から酒とうまいもん三昧。少々うしろめたさを感じるのが、またいい。■松本 創

6軒目 酒の吉田屋

阪神尼崎駅南へすぐ 9:00~22:00(日祝定休) 06-6411-5123 御園町30