神主のぶらり街歩き

連載第28回 立ち飲み屋さんへぶらり

私は顔見知りが多い近所のお店にはあまり食事に出かけない。

しかし、前から気になっていたお店が一軒あった。それは、出屋敷駅までの道筋にある「ひわだ酒店」だ。昼間は神事にお供えする日本酒を買いに寄せていただいている普通の酒屋さんだが、夕方以降に店の前を通ると、スーツを着たサラリーマンが笑顔でお酒を楽しまれている。夜な夜な宴が繰り広げられているような気がするのだ。

そこで、まるで付き合い始めた彼女に初めて電話をする瞬間のような緊張感で夕方お店の扉を思い切って開いてみた。すると週末ということもあり、店の中には会社員風のお客さんが8名、そして近所の浴場帰りの老夫婦が一組おられた。

ひわだ酒店のおかあちゃんこと、桧田美智子さんに「こちらきふねの宮司さんよ」と紹介されてしまうと、皆さん「いつもと雰囲気が違いますね」と私服の私にびっくり。いつも安全祈願でお邪魔している会社の皆さんだった。しかし、その後はそれぞれのお仲間と盛り上がられ、私は桧田のおかあちゃんから、嫁入りして五十年近く立ち飲みの商売を続けていて若い頃はお客さんの愚痴にカチンときたこと、でもよいお客さんに恵まれていることなどを聞かせていただいた。

そうこうしていると「おかあちゃん、帰るわ」の声。「何を飲んだか、自己申告!」でお会計。お客さんが入れ替わられ、新たにサラリーマンが2人私の隣へ。こちらも大変お世話になっている近くの会社の方で、慣れた手つきで自らが冷蔵庫からビールを取り出すと「宮司さんも、どうぞ」と勧めてくださった。

「安く飲めて、お客さん同士が顔見知りになるのが面白い。いつもおかあちゃんに相談に乗ってもらったりもしています」

午後9時が近づくと、お客さんたちが自主的に帰り始めるのも暗黙のルール。セルフサービスといい、自主申告といい、お店とお客さんが〝あうんの呼吸〟で成り立っているのもええなあ、と感じた。あまりの心地よさに、「神主のぶらり立ち飲み屋あるき」にタイトル変更頼もっかな!


江田 政亮 えだ まさすけ
だんじり祭り、地域寄席…いつでも尼崎人にオープンなお社きふねさんの第17代宮司。「国道43号線にだんじりを走らせたい」と南部再生への想いは日々強まる。ラジオ番組「8時だヨ!神さま仏さま」(FMあまがさき毎週水曜日夜8時~)も好評放送中。podcastも。