フード風土 44軒目 福南商店~the lucky south

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

スローなキムチにしてくれ

Want You 俺の肩を 抱きしめてくれ/生き急いだ男の/夢を憐れんで…とは、80年代初頭を飾った名曲、南佳孝の『スローなブギにしてくれ』である。

スローキムチは100gで100円。自然な甘みもある「ふつう」と容赦ない「辛口」。毎朝樽に漬け込む。ナムルなどの惣菜も入れると、メニューは常時30種類以上。

別に生き急いでるわけじゃなかろうが、キムチという奴もすぐ熟成して性格が変わる。つまり、発酵して酸っぱくなってしまう。「うま辛くていい奴なんだけど、酸っぱいのはどうもね」というキムチ好きは多い。筆者もその一人である。

それを解決してくれるのが、尼崎で30年のキムチ専門店[福南商店]。2代目の森山大新さん(46)が昨夏、中央商店街にどーんと新店舗を構え、メニューも拡充。店主一押しかつ一番人気は、その名も「スローキムチ」。発酵の速度をぐんと遅らせた白菜キムチである。もちろん保存料などは一切使わない。

「29歳で本格的にキムチの仕事を始めて、最初に取り組んだのが、すべてのベースとなるヤンニョンジャンの調合。唐辛子やニンニクの他にもいろんな物を入れるんやけど、ゆっくり熟成させるにはどうすればいいか、相当研究したね。完全に納得できるまで2年はかかった」

キムチの味は母から子へ継がれるイメージがあるが、森山さんは在日1世の両親から一切教わっていない。というのも、彼は3歳でおにぎりを握り、5歳で中華鍋を振っていたという生まれながらの料理の鉄人。いくつもの飲食業を経験し、趣味でお菓子作りもしてきた。そのキャリアと探究心のすべてを注ぎ込んだのが、この逸品。

「保存料を使わない一般的なキムチは夏場で3日、冬は2週間で発酵が始まるけど、うちのは夏で30日弱、冬なら数カ月は軽くもつ。しかも、熟成しても、それはそれでうまいんです」

4カ月寝かせたキムチの汁を勧められて飲んでみると、これが驚くほどまろやかでフルーティー。酸味はあっても、嫌な酸っぱさでは全然ないのだ。

森山さんはその腕と探究心で、あらゆる野菜をキムチにしてゆく。長芋、菜の花、わけぎ、小松菜、レンコン…。衝撃的だったのがトマト。オリーブオイルやバルサミコも入ってイタリアンの食材みたい。実際、ピザの具に愛用する店もあるという。それから、炒めたメンマに「容赦なくニンニクを入れた」ニンニクメンマもたまらない。

「旬を見極め、その時季に一番うまい産地の野菜を使う」と森山さん。生き急いだ男では、この境地には決して達しない。


44軒目 福南商店~the lucky south

神田中通4-160 中央4番街
10:00~19:00 無休 TEL:06-6413-8880