論:尼崎運河への恩返し尼崎市立成良中学校 中岡禎雄

運河クルージングや秋のイベント「尼崎運河博覧会」でいつも出会う元気な中学生たち。成良中学のネイチャークラブメンバーとして運河の水質浄化に取り組む彼らを見守る、顧問の中岡先生から寄稿いただきました。

こんな活動しています

成良(せいりょう)中学校では、創立以来、環境や自然への関心を高め、自分達の生きる生活環境を改善しようとする力を育てることを目的とした取り組みを続けてきました。技術科や『総合的な学習の時間』で、「環境にやさしいものづくり」と題して始まった巣箱の製作や観察活動は、自然環境や野生生物保護の心を育みながら、地域美化や緑化活動、尼崎の海や運河の水質浄化へと広がっていきました。そして現在、これらの活動を「命あるものが共生しあえる社会づくり」へと発展させようとしています。

暮らしと運河のつながりを知る

平成19年度からは、命の源となる水環境に目を向け、自分達の生活と尼崎の海や川とのつながりを知るために、水中の生き物観察や水質調査を行なうようになりました。

徳島大学や尼崎港管理事務所の協力で行なう「知るための活動」では、尼崎の運河の水には、人間の生活から出された窒素やリンが多く含まれていて、それが植物プランクトンの成長に利用され、赤潮やヘドロの原因となり環境を悪化させることがわかりました。

これまでの調査結果をまとめ多くの人々に伝える中で、少しずつ地域の人々や専門家などとの連携が広がり、緑化活動や環境美化活動、運河の水質浄化につながる活動が定着していきました。そして、命ある全ての生き物が、人間と共生し合える環境づくりを行なう「つくり育むための活動」へと発展させることができました。

命のつながり感じる収穫祭

北堀運河の水質浄化施設で、尼崎運河の窒素やリンを吸収して繁殖する藻や貝類。それらが死んでヘドロになる前に採集して、学校で枯葉や雑草と混ぜ合わせ、太陽光発電で稼動する生ゴミ処理機で堆肥化することに成功しました。

栽培に活用するための安全性については、徳島大学に依頼し分析をしてもらった結果、安心して使える堆肥であることがわかりました。また塩分の影響もほとんどなく、十分に熟成された状態で使用できることもわかりました。この堆肥を培養土に混ぜ込んで、学校の屋上や校庭で作物栽培を行い、自分達で育てた野菜を調理して食す“収穫祭”を開催できるようになりました。

また、野鳥が好む果樹や、六甲山や武庫川流域に自生する在来種の草花を栽培して、生物多様性に富む庭園開発を行っています。校内の庭園には、現在50種類近くの植物を植えることができました。今では多くの野鳥や昆虫の観察ができます。また、校内の庭園に設置しているスズメが営巣した巣箱には、ゴミが無く、多くの枯れ草が使われるようになりました。

このように生徒達の、尼崎運河における水質浄化活動は、これまで問題となっていた運河の水の「汚れの原因」を、自分達の生活や、多くの生物の生息を助けることにつながっています。これまでの取り組みは、私たちの生活が、運河や海、大地と、命をつないでいくことを柱とする考えで、循環型社会の構築をめざすモデルケースとしても大きな成果をあげることができました。そして熱意ある多くの人々と協力し、お互いを認め合いながら取り組むことで、自尊心を高め、より高い志をもって活動する生徒が増えています。

命の意味を尼崎運河で発見

わたし達のめざす「理想の都市環境」とは、全ての生き物が持つ命の意味を知ることができてこそ創れるものだと考えています。

「運河の魚をもっときれいな水で生かしてやりたい」「活動してみんなと仲間になれた気がしました」「人間が汚した環境を自分達の力できれいにしていきたい」と話す生徒達。

尼崎の人々の生活を支えてきてくれた運河に最高の恩返しができるよう、命の尊さやつながりについて気づき、成長し続ける生徒達と共にこれからも活動を続けていきたいと思います。


なかおかさだお

1965年、大阪府堺市に生まれる。22歳で中学校教諭として尼崎に赴任し26年。現在、成良中学校で技術科を担当しながら環境教育推進担当を務める。将来を見据え、持続・発展する環境学習活動に力を注いでいる。