車内特別座談会やっぱりバスが好き♪
経営が悪化する市バス事業。今年7月、尼崎市の公営企業審査会は「完全民営化がのぞましい」という答申を市に提出した。地元の足は一体どうなるのか?市バスを愛する3人がバスに乗り込み徹底放談!
バスアナリスト 齊藤成人
「バスに足りないのは楽しさ」
バスマニア 土屋雅義
「できることはまだまだある」
バスビギナー 黒田裕子
「いつかはバスを使いこなしたい」
○この日は祝日。
朝9時に阪急塚口駅を出発し出屋敷駅へ向かうバスの車内には、10数人の乗客の姿。
土:バスってそもそも何人乗ったら採算があうんでしょうか?
齊:公営バスで黒字なのは世界的にも珍しいんです。日本でも2~3社だけ。「これを単純に黒字にしろ」という方が乱暴だと思います。たしかに公営バスの人件費は民間バスと比べて高いんですが「給料が高い、ふざけるな」って話と「公営バスを廃止にしろ」という話は別のものとして議論をしないと。
土:実際は黒字になる路線ってどれくらいあるんですか?
齊:そもそも、バス路線で黒字なのは全国で30%だけ。
土:関西だと阪急バスや神姫バスあたりは頑張っていますね。
齊:民間バスは不動産収入があったり、神姫バスは貸切バスの事業が好調だといいます。
○車内広告も結構目立ちますが…
齊:実際はたいした額じゃないです。1年間の広告収入をバスの台数で割ると1台当たり30万円くらいなので、月2万ちょっと。
土:意見広告出しませんか?「みんなでバスに乗ろう」とか(笑)
齊:民間委託にして人件費を削減するなど、コストカットはあくまでも運行する側の理屈。利用者目線で乗りたくなる、つまり売上を伸ばす工夫が必要だと思います。
○乗りごこちはどうですか?
齊:車内に段差が多くて構造が複雑でしょ。ディズニーランドのミッキーマウスのバスとかおしゃれじゃないですか。もっとシンプルに電車のような配列にしたらいいと思うんですよ。
土:乗り降りの段差をなくすためにノンステップバスを導入していますが、タイヤとかエンジンを収めるためにどうしてもこういう構造になるんですよ。うちの嫁なんかは、ノンステップバスは乗りにくいと敬遠しますね。
齊:逆に乗り場をかさ上げして改良する方が安上がりなんじゃないかと思います。そうすれば対面型ストレートシートの快適な車内が実現する。
全:おー、それは名案。
○黒田さんは尼崎に引っ越してきたばかりですよね。バスって乗ったことあります?
黒:市役所に用事があった時とJRが遅延した時に阪神まで乗ったことくらいかな。料金が先払いなのにびっくりしました。どうして先払いなんですか?
土:終着のバス停で前後のドアを開けて、乗客をいっせいに降ろせるから効率的なんです。
黒:へえ~知らなかった。でも、バスはできることなら乗りたくない。間違えて乗ると取り返しがつかない気がして。車内の路線図も分かりにくいし。
齊:やっぱり電子掲示板は必要だと思うんですよ。利用者に親切じゃない。路線名が11番と13番とか言われても分からないでしょ。シンプルなネーミング。これは必要だと思います。東西線とか、南北線とか、遊女塚線とか(笑)
黒:たしかにちょっと親しみやすくなるかも。
土:誰が見ても分かるようなカラー分けも必要。塚口方面に行くバスは赤色とか、武庫之荘方面は青色とか。
齊:都営地下鉄がそれで成功していますよね。駅にナンバリングするとか、外国人にも分かるような仕掛けですよね。
(たららら~ん♪ 車内アナウンスのメロディが流れる)
齊:あとは車内で音楽を流して欲しい。せめてラジオとか。
土:音楽か…、乗客の方の好みもあるし難しいと思うなあ。
齊:それでも楽しい方がいいですよ。はじめてバスに乗るのは抵抗があるんです。乗りこなせるととても便利だけど、地理感覚や路線を覚えたりハードルが高い。
黒:街の地理感覚が分からないうちは、バスに乗るのは不安。引っ越してきた人を対象に路線を教えてもらえる「はじめての市バス入門講座」みたいな、市内を回るツアーがあるといいのに。
齊:路線がもっとシンプルにできるといいですよね。幹線道路を単純に行き来する南北線と細かくまちなかに入り込む東西線。乗り換えが必要なので、全路線に乗れるUSJみたいな年間パスがあったらもっと乗りやすいと思います。
土:定期はあるんですよ。1ヵ月で8400円だったかな。
黒:それはちょっと高いかも…
○他にもバスに乗りにくい理由があるとか?
黒:バスに乗っている間は落ち着かないんです。どこに向かっているのか分からないから、安心して本も読めない。車内に掲示板があって今地図のどのあたりを走っているかが分かるといいのに。
齊:グーグルマップみたいなのを車内で見れるようにしてね。そんなに経費もかからないはず。モニターなんて5~6万円でしょ。
黒:海外で見たんですが、自転車でそのままバスに乗れるのがとても便利そうでした。
○日本はバスのイメージがよくないかもしれませんね。
黒:道路が混んでいて時間どおりに来ないイメージもあるし。
土:昭和40~50年代はたしかにそうだったかも知れません。今はロケーションシステムなど技術が発達して遅延もずいぶんなくなっています。昔のイメージをひきずっているだけなんですよね。
齊:これから人口が減ってきてクルマが少なくなると、バスの遅延はもっとなくなる。尼崎のような都市だと、お年寄りが自動車を買って所有するよりも、バスやタクシーを活用する方がずっと安上がり。だから僕は手軽な「年パス」を推してるんですよ。
○みなさん、バスへの情熱がすごすぎるのですが…
齊:バスは絶対改善の余地があると思うんです。尼崎市では15才から64才の人口が25年後には9万人減るんです。乗客が減るのは当たり前、通勤通学が少なくなりますから。そうすると、「誰も乗らないバスなんかやめちまえ」という話にしかならない。赤字のバス路線を税金で支えて維持すべきかどうかは、住民全体で考えなければならない。僕は北海道で国鉄が次々に廃止されていく地域で育ったんです。地域の足がなくなる打撃は大きいんですよ。
土:それこそ高齢者の足として必要なんですけどね。いっそのこと、AKBみたいにバス路線総選挙をしたらいいんですよ。仮に組織票が集まったとしたら、その路線はそれだけ支持されているということですから。もっと乗りたくなる仕掛けが必要。終電にあわせた深夜バスや、園田から伊丹空港など乗車料金が500円でも流行るバスを走らせて、収益を上げることも考えて欲しいですね。
黒:これを機会にもっと乗ります。まずはバス路線マップを手に入れてマーカーで印をつけたり、まだまだ予習がいりそうだけど。
市バスへの情熱を燃やすトークはつきない…
齊藤成人
公共交通大好き銀行員。中学生の時のバス通学で、乗り物酔い癖を直すことができたので、バスには感謝している。
黒田裕子
今年から尼崎市民となった期待のルーキー。複雑すぎるバス路線に圧倒されながらも「いつかは攻略を」とコアな市民を目指す。
土屋雅義
園田で生まれ育った熱烈バスファン。休日にはバスを乗り継ぎ小旅行に繰り出す。尼崎市バスモニターなどで様々な提案も。