フード風土 37軒目 CHOTTO BAR
よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
「ちょっと」で済まない本格酒場
会社員だった頃、夕刻を過ぎると、職場にこんな言葉が飛び交った。「ちょっとビールでうがいして帰ろか」「30分一本勝負いこか」。長居も深酒もせえへんで、とあらかじめ腰を浮かしつつ、ちょっと寄り道、ちょっと1杯…と勤め人たちが足を向ける。酒屋に併設の酒場と聞けば、そんな場所が思い浮かぶ。
だが、この店[CHOTTO BAR]は違う。名に反して「ちょっと」の域を超えている。前に訪れたのは本誌16号で武庫川界隈を飲み歩いた8年前。久々にのぞくと、店の奥行きも、カウンターの長さも2倍に広がっていた。
母体である[西佐本店]は1890年(明治23)の創業。「この辺でたぶん一番早く商売を始めた」という店は当初、米や乾物がメインで、お酒はそれこそ「ちょっと」だったらしい。が、16年前に西谷日出男さん(45)が4代目を継ぐと、酒類がぐっと充実。神戸のモルトウイスキー専門店で働いた経験もあるという西谷さん、日本酒やワインにも造詣深く、何より「おいしくお酒を飲んでほしい」という思いが強かった。
豊富なラインナップをゆっくり試飲してもらおうと、バーカウンターを特注。お酒に合うアテを選び、やがて自分で調理を始め…とやっているうち、本格バーになった。
今や、お酒もアテも定番は自家製。珍しく白ワインを使うサングリアは、すっきりした飲み口に桃やリンゴの自然な甘みと香りがなじみ、「甘ったるい酒」という当方の勝手な先入観をきれいに洗い流してくれる。お供は鴨ロース。プロユースな圧力鍋ストウブで柔らかくなった鴨肉に、旨味がギュッと凝縮されている。
「果物は日本酒にも合うんですよ。今の季節だと、梨や柿とひやおろし。絶品ですよ」
「ワインはボルドーが一番好きなんですけど、イタリア、スペイン、チリ…と120銘柄ぐらいあるかな」
お酒と西谷さんの話に気持ちよく酔ううち、カウンターが賑やかになってきた。「ほぼ毎日来る」という常連さんたちは、みんな地元の住民。仕事から帰宅して、わざわざ飲みに出てくる人も多い。
ちょっと、ちょっと…の積み重ねでできた一番居心地のよい場所。街の人にとっても、西谷さん自身にとっても。■松本創
37軒目 CHOTTO BAR
大庄西町1-3-15
17:00~1:00 日・祝休
TEL:06-6417-2431