マチノモノサシ no.15 尼崎市の保育所事情

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

保育所の入所を待つ児童10人

「少子化対策」の名目で子ども手当の支給が始まる一方で、都市部を中心に保育所不足のニュースが絶えない。「○○市の待機児童××人」というやつだ。待機児童とは、認可保育所に申し込んでも施設が一杯で入所できない5歳以下の児童のこと。全国に2万人いるとされ、例えば人口急増中の西宮市では310人に上るという。保育所を増設すればするほど、それがまた潜在需要を呼び覚まし、待機児童数は増え続ける一方だそうだ。悪循環…といえば怒られるか。

ここ尼崎はどうだろう。市こども青少年局の担当者に聞いてみた。

2010年4月現在の待機児童数は10人。地区別に見ると園田地区が5人、立花で2人、中央、小田、武庫地区は各1人。大庄地区はゼロ。若干の偏りはあるけれど、概ね保育サービスは満たされている、ということだろうか?

「1960年代の人口急増に対応して、1小学校区1施設を目安に保育所を設置してきました。現在、認可保育所は81カ所。他都市よりは余裕があるといえます」とのこと。が、問題は数だけではないらしい。この10人はすべて3歳未満。つまり、低年齢児を受け入れる施設がないのが悩みになっているのだ。

背景には、施設が整備された50年前に比べて女性の社会参加が格段に進んだことがある。「早く職場に復帰したい」という要望は強いが、保育所側が対応しきれないのだ。特に、市の財政事情から公立保育所の現状は厳しい。

3歳未満の子供を預かるには、国の基準により保育士を手厚く配置しなければならず、その分、人件費がかさむ。施設改修の費用負担も重い。「新たなニーズに応えるには民間移管が望ましい」と、市は1998年から民営化をすすめ、公立保育所を将来9カ所にまで減らす方針を打ち出している。

実際、0歳児から受け入れ可能な保育所は市内に59カ所あるが、その約9割は私立保育所だ。定員増に積極的に取り組んできたのも私立保育所。おかげで2001年には224人だった待機児童数が、翌02年には34人に激減した。民営化によって施設が新しくなり、園児が大幅に増えたケースもあった。

もちろん、「公立でないと安心できない」という人もいるだろう。また、「預けたいけど諦めている」という、数字に表れない潜在需要もあるに違いない。が、データから現状を見る限り、尼崎の保育サービスは、民間に経営を委ねることで質量ともに比較的良好に保たれているといえそうだ。何しろ、半径500メートル内に1保育所という計算なのだ。

3年前に尼崎から西宮へと引っ越したある女性は保育所が見つからず、認可外保育所へ預けているという。保育料は月10万円以上。「尼崎に空きがあるのなら川を渡ってでも預けたい。同じような思いの人は多い」と溜息をつく。西宮で保育所に振られ続け、結局、尼崎へ引っ越して来たという人もいる。

市境を挟んだ保育所の極端な偏在。これって尼崎の強みといえないだろうか。「待たずに入れる尼崎の保育所」が、子育て世代を呼び込む切り札になるのかもしれない。■尼崎南部再生研究室

保育所待機児童数の推移 武庫川の向こうは“超”保育所不足 尼崎は充実している?

「西宮市保育所待機児童解消計画」より作成 各年度4月1日現在