THE 技 複雑な曲線生み出す木型職人

ものづくりのまち尼崎に息づく匠の技の数々。最先端技術、職人技、妙技、必殺技…。
アマから繰り出されるワザに迫る

真柄木工所
今年創業60周年を迎え、現在は4人の職人で木型を製作。(写真:真柄晃子)

車が行交う国道43号線を一筋入った東本町の一角、「耐火レンガの木型」を製作している「真柄木工所」を訪ねた。

「木型って口で説明しにくいから、まず見てから」という真柄民雄さん(82)の案内で中に入ると、滑らかに削れた分厚い堅木の作業台と木屑が目を引く。長年使い込まれた雰囲気と天然木の匂いが心地よい。

「耐火レンガ」は、1350℃以上の高温に耐え、熔かした金属やガラスの注ぎ口などに使われる。真柄さんはこれを成形するための「木型」を作っている。宇宙ロケットの発射台にも真柄さんの木型から生まれたレンガが採用されているのだとか。曲面や複雑な形の特殊な木型を作る木工所は関西ではここだけ。そして彼は昭和25年からこの仕事を始めた熟練の「技」の持ち主である。

依頼は図面で渡される。実物がない中、出来上がりを頭の中でしっかり把握することが大切。さらに木型の外し方も考えないといけない。熟練の今でも「いつも寝ながら考える」と確実なイメージづくりに余念がない。

この日は約40cm四方の箱型を組み、箱の中に木型を組込んでいた。求められる精度は±0.5mm。型を取外しやすくする為に垂直の部分は0.5mm傾けておくそうだ。焼くと3%縮む土の性質も見込むなど、カンナ・ノミ・ヤスリを持つ手に高い精度が求められていることに驚く。

使う木材は1年以上乾燥させたサクラ材。堅く、狂いがなく、節もみられない良材である。形を整えたサクラの木片を、木箱の中に丁寧に詰め込んで、隙間を創ってゆく様子は、空気を彫刻しているように見えた。


取材と文/岡崎勝宏
1971年尼崎生まれ。工業デザインを志し、気がつけば建築の深みへ、アマ発の建築を考える。