フード風土 32軒目 魚屋 釜谷

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

客と一緒に進化する「魚屋」

丸々肥えたアジの塩焼きとアサリの味噌汁、奥にはキンキの開き。店内で飲食の場合はサービス料50円~。塩焼き、煮つけ、天ぷら、フライなど。

物食う状況というか、行為そのものが旨いと感じる店がある。酒屋の店先で軽いアテとともに飲む。定食屋の棚から小鉢を選ぶ。魚屋に並ぶ魚をその場で料理してもらう。立花の[魚屋 釜谷]は、そういう「おいしい行為」で成り立っている。意図したわけではないらしい。「お客さんの要望を聞いてるうちにこうなったんです」と、2代目店主の釜谷賢司さんは楽しそうに笑う。

もとは水堂市場の魚屋だった。市場を出て、新たに店を構える時に「刺身でビール1杯ぐらい飲んでもらえたら」と、立ち飲みカウンターを設けた。すると、「この魚焼いてくれへん?」「焼酎も置いてや」「座ってゆっくり食べたいわ」という声が相次ぎ、4年ほどの間に「昼から飲める魚系居酒屋」になった。

入口はたしかに魚屋。近所の奥さんも買いに来る。旬の魚、刺身、開き、味噌漬け。よく肥えたアジに目を奪われ、塩焼きにしてもらった。大粒のアサリは味噌汁に。隣の棚から炊き込みご飯のおにぎりとたこわさびを取り、これで800円ちょっとの定食完成。ビールを頼み、ホクホクのアジをつつく。ええ気分であらためて店を見回せば、まあその雑多なこと。

あら煮、炊き合わせぐらいは分かるとして、麻婆豆腐、コロッケ、カレー、それにめちゃくちゃデカいハンバーグ…。「インターネットでは、ハンバーグと魚の店って書かれてるらしいです」と釜谷さん。カウンターの上には一升瓶のキープボトルがずらり。「芋焼酎が多いですね。持ち込みもできますよ。調味料持ち込む人もいるし(笑)」と、妻の英子さんも屈託ない。「お客さんと一緒に考えるのが楽しいんです」。

「僕、こだわりがないから」という釜谷さんだが、一点だけは譲れない。「うちはあくまで魚屋」というプライド。だから、夫婦とも長靴に前掛けの魚屋スタイル。朝4時から卸売市場に行き、旬と鮮度、旨い食べ方をしっかり見極める。「これからの季節やったらハモ、ウナギやね」。

そこには、市場の魚屋を長年営んできた父への敬意があり、町の食卓を支えてきた店の矜持がある。だから客は気持ちよくワガママを言える。


32軒目 魚屋 釜谷

立花町4-2-4
10:00~22:30
L.O 22:00 日休
06-6438-7267