マチノモノサシ 尼崎市バスの台所事情

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

市バスの運賃収入10年で23%減

尼崎市営バスの敬老パスが今年10月から有料になるらしい。これまで70歳以上の市民は無料だったが、今後は一部負担を求めるという議案が、3月の市議会に提出される。60年以上にわたって親しまれてきた市民の足に、今何が起きているんだろう。

正確には「市バス特別乗車証」という敬老パスの見直し方針を市が発表したのは昨年12月。運賃の半額の100円(当初は経過措置として50円)を降車時に支払ってもらう「コイン方式」と、特別乗車証を有料化する「フリーパス方式」のどちらかを市民が選択できる。福祉課が開いた市民説明会では「乗る回数が激減する」「生活が苦しくなる」と困惑する声、「一部負担は仕方ない」と理解を示す声も寄せられた。

「高齢者をタダで乗せているから市バスが赤字になる」という声もよく聞くが、実はこれは大きな誤解。敬老パスによる乗車運賃は、市の一般会計から補助金として交通局に支払われている。高齢者の生きがい促進を目的とした福祉施策という位置づけになっているのだ。

この補助金を差し引いた市バスの純運賃収入を見てみると、1998年に22億8428万円だったのが、2008年は17億6542万円。有料乗客は10年で23%も減ったことになる。

経費を補うため車体のラッピング広告に力を入れたり、利便性を高めるため全国に先駆けて全車両をノンステップバスにしたりと、「経営努力はしている」と市交通局。その一方で、民営バス事業者と比べて平均44%も高い運転手の給与水準が赤字体質の大きな要因になっている。人件費がかさんでいるのは、全国共通の問題。公営バスの給与はどこもほぼ同じ水準だという。こうしたコストを削減するため、09年12月には武庫営業所の運行を阪神バスに委託した。「22時台までだった最終便が23時台まで繰り下がるなど、サービス向上にもつながっています」と交通局担当者は言う。

213の停留所がある尼崎の市バス交通網は全国屈指の充実度だという。が、市内28路線のうち、なんと20は赤字路線。黒字は、阪神尼崎駅と阪急沿線を結ぶ幹線、武庫之荘駅から宮ノ北団地など他社との競合がない地域線など、ほんの一部だけだ。「空気を運んでいる」と揶揄されたりもするが、だからと言って即廃止とはならないのが公共交通。実は、ここでも路線維持のための補助金が一般会計から投入されている。

でもいったい、市バスの維持にどれだけ税金をつぎ込めばいいんだろう。

市は09年に「地域交通会議」を設置し、有識者や事業者と公共負担のあり方を議論している。営業係数や社会的重要度などの指標に沿って路線の見直しも始まった。委員長の正司健一・神戸大学大学院教授は「公共性という言葉には万人が一致する見解がありません。今回の議論ではこれを判断基準にしようとするところに難しさがあります」と話す。

市民アンケートでは、半数以上が「ほとんど乗らない」と答える一方で、「地域の社会基盤として必要」「今はなくても困らないが、将来的に必要」という声が多数を占めた。採算性や自分が乗る・乗らないに関わらず、「市バスは残して」ということだ。ならば、その最適なサイズや負担について、私たちも考えてみる時じゃないだろうか。■尼崎南部再生研究室

市バス営業収入と営業費用の推移 費用を減らすか、収入を増やすか 長引く市バスの赤字体質

「尼崎市交通局ホームページ」より作成 参考資料「尼崎市公営企業審議会答申(平成21年6月)」