サイハッケン 温泉生まれの新しい音楽があった。
長く住んでいても意外と知らないまちの愉しみ。「へえ~」と目からウロコの再発見!
ディープサウスの魅力をご堪能ください。
エンソルからポップスの名曲、トークも交えて約1時間のステージ。先日のメイドインアマガサキコンペでは期待を込めて「ホープ賞」を受賞した。
混迷を深める関西三空港問題に尼崎から火の手が上がった…わけではない。が、ステージからの「伊丹じゃなくて?」の声に「関西空港!」と応える浴衣姿の聴衆。「神戸じゃなくて?」にも、やっぱり「関西空港!」。ほとんどゴスペル教会並みの熱狂的コール&レスポンスは、すっかり尼崎名物となっているらしい。
ここは天然温泉「あま湯」のビアレストラン。週2回、舞台に立つのはフレディーさん(48)。アメリカ南部アラバマ州出身、日本で音楽活動を始めて25年になる黒人シンガーである。
ただの温泉ショー歌手ではない。彼のルーツであるソウルやR&Bの魂と日本の演歌の心を融合した「エンソル(演歌+ソウル)」のオリジネイター。昨年秋にCD「関西空港」でデビューするや、横山剣や宇崎竜童といった名だたるミュージシャン、ソウルファンたちをノックアウトした。
きっかけは、あま湯に出演するようになった5年前。お客さんの求めに応じてレパートリーに演歌を加えた。「最初に覚えたのは『昴』と『夢芝居』。そればっかり歌ってた(笑)」。が、日本語の方が圧倒的に歌が届くと感じた彼は、そこで得たフィーリングをオリジナル曲に取り入れ始める。「ジェロはほんまの演歌歌手、僕のはエンソル」というワン&オンリーのスタイルは、メイドイン尼崎なのだ。
「前世は日本人だったと思う」というほど日本を愛する彼に、尼崎の人々の印象を聞くと、「リアル・ピープル。自分を隠さない、気取ってない」と笑う。そんな人柄に惚れたおばちゃんたちの応援団「フレちゃんクラブ」も結成された。
尼崎の温泉から紅白へ。「この気持ち圧倒的多数」(@『関西空港』)である。
取材と文/松本 創
ソウルやR&Bを愛して20余年。時々ソウルシンガー「MJ」を名乗って歌う。