フード風土 31軒目 杉本食堂

よそ行きの「グルメ」じゃない、生活密着の「食いもん」を探して、アマを歩く。
取材・文=松本創(本誌)

オモニを想うホルモン焼きうどん

特製タレは万能。ホルモン焼きうどん(手前)のほか、バラ肉やきめし780円の味付けにも。持ち帰りも可。500mlが600円。油かすを全メニューにトッピングできる(100円)というのも、なかなか。

テキパキと店を切り回すしっかり者の女将に、居並ぶ男たちが喜んで仕切られている…というのは、鉄板系の店によくある光景。この店もそうだったのだろう。ホルモン焼きを看板に、50年以上続く「杉本食堂」。こんな所に店が?と訝りつつ、臨海部の工場地帯を行くと、路地の一軒家にのれんがかかっている。川向こうは西宮。たぶん尼崎で最南端かつ最西端の食堂である。

その女将の名は杉本英子さん(87)。昭和の初めに朝鮮から渡ってきた在日一世。やはり朝鮮出身の夫と2人で苦労して店を持ったものの、早くに先立たれ、女手一つで、この店と6女1男を育てた。

「お客さんは近くの工員さんで、みんな店に来るなり、鉄板囲んでお酒とホルモン。3交代だから息つく間もなかったそうです」と息子の妻、景淑さん(46)。数年前に引退したオモニの後を継いだ。「どぶろくを密造して税務署に踏み込まれ、甕を割って隠し…なんて話も聞きました」というから、梁石日が描いた『血と骨』の世界そのものだ。

そういう中から生まれたのが、ホルモン焼きうどん650円。よく炒めたテッチャンとキャベツをうどんに混ぜ、特製の甘辛ダレをたっぷり絡める。「タマネギやニンジンを加えてみたこともあるんですが、野菜の甘みが出るのでやめました。このタレを味わうには極力シンプルな方がいいので」。

醤油と砂糖、だしなどをベースに、挽き方の異なる2種類の唐辛子ブレンドを加えたタレは、英子さんが長年継ぎ足してきたもの。そして、すべての作業は、分厚くて正方形の、開店当初にあつらえた鉄板の上でする。古ぼけてはいるが、英子さんがレンガでせっせと磨き上げてきた。たまの休み前に「ご苦労さま。やっと休めるね」と話しかけながら。このタレと鉄板のコンビが、英子さんを支えた伴走者であり、子供たちを守ったもう1本の柱なのだ。

勢いよくかき込んだ焼きうどんは、特製タレの味がくっきりと立っていた。トッピングに油かす(小腸を油で揚げたもの)を加えれば、さらにコク。「とにかくガッツのある女性」だという英子さんに「しっかりしいやー」と尻を叩かれた気がした。■松本 創


31軒目 杉本食堂

丸島町26
11:00~14:00
17:00~19:00
日・祝休 tel:06-6416-3149