マチノモノサシ no.3 尼崎のお値段が上がりはじめた?

尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。

地価上昇率大阪圏第3位

2006年の尼崎市地価公示価格が、商業地平均で0.7%、住宅地では1.2%アップした。住宅地の上昇率は大阪圏では芦屋、西宮に次ぐ第3位。全国各地で依然下げ止まらないなか、尼崎は上昇に転じた。これって街にとって明るい材料なんだろうか。

「売買件数は前年比で25%増くらいの実感はありますね」と、市内の不動産業者。分譲住宅の新規着工戸数は04年2653戸(前年比24.7%増)と、数年前から住宅建設ラッシュだ。

「投資マネーは、流動性が高く、比較的リターンが固い不動産市場を向いている。将来転売しやすいまちなかは特に人気です」と、日本政策投資銀行の齊藤成人さんが解説してくれた。

明倫中学校跡地に建設中の400戸、市内最大規模のマンション。にぎわう週末のモデルルームは、ほとんどが子育て世代。「工業都市から緑の街に。尼崎は変わりました」と、販売担当者のPRにも熱が入る。武庫之荘や塚口に住むファミリー層の関心も高いという。「武庫之荘で同等の物件だと500万近く高い。同じ尼崎だし…という方は多いです」。この界隈では、ほかにも4件の新築マンションが競い合う。

地価が上がるのは、人気エリアだということだ。06年のマンション・トレンド調査では「イメージが良くなった街」で尼崎が関西第4位に躍進。理由の1位は「商業施設の充実」だった。

たとえば、JR尼崎駅北西の巨大プロジェクト「あまがさき緑遊新都心」。来年秋開業予定の「キリンガーデンシティ(仮称)」が注目を集める。阪神百貨店やシネコン、総合量販店などが駅に直結するが、ここにも総戸数453戸のマンション計画がある。

住宅地や商業地だけではない。臨海部では05年に松下のプラズマパネル工場が稼動。第2、第3工場と増設し、09年春には世界最大の工場となる。港湾・高速道路の充実ぶりや立地の良さが見直され、工業地でも下げ止まりの兆しがみえるのだという。市産業立地課は「すでに実勢価格は高騰している。まるでバブルのよう」と驚く。

固定資産税が上がれば税収が増え、市財政にもメリットは大きい。こうした「好景気」を狙ってか、地銀や信用金庫が市内に支店を続々開設しているという報道もあった。

いまのところ、いいことづくめのように思えるけれど…。

「地価上昇は、地域格差という問題を生む一面もあるんです」と齊藤さんはクギを刺す。住宅地の上昇率トップ10に武庫之荘や塚口の地名が並ぶ一方で、南部の西本町や御園、駅から離れた常松は変動なし。下落したエリアこそないものの、北部と南部、沿線や駅との距離で濃淡は出ているのだ。

商業地でも同じことがいえる。平均すれば上がっているとはいえ、南部と北部では微妙な温度差がある。南部の商店街では、店舗がなくなった跡地にマンションが建つという「商業地の宅地化」が問題になり始めている。「商・工・住で保たれてきたバランスが崩れてしまう」という危惧もあるのだ。

地価上昇で地域間の「勝ち負け」が表れてくるとすれば、手放しで喜んでばかりもいられないようだ。 ■尼崎南部再生研究室

市内地価公示価格の推移

利用別に平均価格の推移をグラフに示した。上昇に転じたとはいえ、これまでの下落幅は大きい。

上昇率大阪圏第3位?

『平成18年大阪圏の住宅地の上昇率上位市区町村』(国土交通省土地・水資源局地価調査課)で、芦屋市(3.7%)西宮市(2.4%)に次ぐ第3位に輝いた。