名言とまちへ 「すべての道はローマに通ず」

巨匠の言葉は、万人の心をつかんできた。彼らが生み出した名言・金言は、ここ尼崎南部でも感じることができるのか。まちへ繰り出し検証。「巨匠センセー、これってそういう意味ですよね?」

すべての道はローマに通ず ラ・フォンテーヌ

ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ(1621-1695)
17世紀フランスの詩人。今回の名言は、イソップ物語やインドの寓話を素材に、動物を主人公に書いた著作『寓話』に出ることば。ラテン語に類似した古いことわざも。

尼崎に住んではや2年半、この間に近所のランドマークであった鉄塔が少しずつ姿を消していることに気がついた。送電線が取り外され、寂しそうにぽつんとたたずむ鉄塔が次々と解体されている。送電線はどこに続くか、身近なものをたどった。

鉄塔のふもとには不思議な空間が多い。保護柵に囲まれた立ち入り禁止の敷地の多くは電力会社が所有している。周囲にそぐわない荒地やうっそうと草木が生い茂る緑地といった謎の土地はいわば「送電の道」といえそうだ。しかし、これらの空間は鉄塔が撤去されたあとどうなるのだろう。さらに送電線をたどり国道43号線を南に渡ると、鉄塔の密度が増えてくる。大浜町にある変電所は「鉄塔銀座」の異名をとる。集積した電線の景色は圧巻だ。

ふと「すべての道はローマに通ず」という言葉が浮かんだ。ちょうど先日、ローマ史を15年かけて書いた大作、塩野七生氏の「ローマ人の物語」シリーズが完結し話題を呼んでいるところだ。ローマは領土拡大において基盤整備を重視した。その中でも力を入れたのが街道だった。言葉どおりローマを中心に遠くはバルト海や黒海にまで、できる限り最短の道を張り巡らせたのだ。

尼崎の送電線にとっての「ローマ」は、かつて終着点にあった関西電力尼崎第3発電所だった。この火力発電所が市内外の電力供給を担ってきた。だが今、たどった先にローマはない。電力供給が原子力発電にシフトし、第3発電所は平成13年に閉鎖された。おりしもその発電所跡地に建つ松下プラズマディスプレイの工場が増設され世界最大規模になると発表された。その工場間近で電線はぷっつり終わっている。

工場がどのくらい電力を必要とするかは分からないが、世界一の電子系の工場が一般家庭の比でないのは確かだ。関西電力の持つ送電線は現在約13000キロメートル。本家ローマの作った道にははるか及ばないが、電力の道は姫路、福井、堺にある発電所へ行き先を変更し、今も遠く長く伸びる。


綱本琴●つなもとこと
主婦、一児の母。伝統技術を持った職人さんと人々を繋ぐ「町家発ほんまもんの会」スタッフ。