統合でどうなる? 阪急+阪神「私はこう見る!」

定期券や回数券の共通利用、レジャー施設の相互割引、阪神Vセール拡大…なんて色々いわれてるけど、統合効果ってそれだけなんですか?

展望その1 バス再編、沿線文化充実を 土井 勉(神戸国際大学教授)

どいつとむ・京都市役所、阪急電鉄勤務を経て04年から現職。公共交通とまちづくりなどをテーマとする。

社会全体の人口が減少し、高齢化していく状況では、鉄道は基本的に儲からない事業。今後はマイカー需要をどう電車に誘導するか、また、人々の電車利用の頻度をどれだけ上げるかが重要になります。

そのためには鉄道が便利でなければなりません。まずはバス路線の整理再編でしょう。長年の激しい競合の結果、阪神間では、阪急沿線に阪神バスが入り込み、あるいはその逆の形で、電車とのアクセスが悪い「ねじれ」を起こしているところが少なくない。それを解消し、バスから鉄道へ途切れなくつなぐこと。高齢者が利用しやすい乗り場の新設、路線・時間の分かりやすい情報提供など、できることはたくさんあります。

また、通勤・通学等の定期券利用ではない「自由目的」の乗客をいかに増やすかも重要になってきます。沿線の文化施設と連携したり、演劇やコンサートなどのコンテンツを充実させたりするのも一つの方法でしょう。人は結構、「文化」で動くものです。その際には地域の人たちと一緒に考えることが不可欠です。「駅ナカ」ビジネスに力を入れる動きもありますが、駅の外に目的地を作らなければ沿線は寂れ、結局は利用者を減らすことになってしまう。

これらの大前提として、安全性の確保と向上があるのはいうまでもありません。安全と安心が信頼を生み、「マイレール」意識を育成していくのです。

展望その2 大・阪神間文化の架け橋に 三宅 正弘(武庫川女子大学助教授)

みやけまさひろ・石やケーキなど地域に根ざしたものを素材にユニークなまちづくりを提唱。阪急ブレーブスの熱心なファンでもある。

これまでは、おしゃれな阪急、庶民的な阪神といった構図ばかりが目立っていました。しかし、阪急沿線住民も実は城下町尼崎や酒蔵西宮といった江戸時代の香りが残る阪神沿線文化に憧れがあるのです。

モダンな阪急、クラシックな阪神。両者の歴史性をうまく融合させ、阪神間の人たちが共有できる「大・阪神間文化」が育まれることを切に願います。経営統合が沿線住民の感情を近づけるきっかけになるのではないかと思います。

展望その3 私鉄王国復活を!鉄道研究者の叫び 高橋 修一(立正大学経済学部専任講師)

たかしましゅういち・学生時代より鉄道専門誌等で記事を執筆。私鉄沿線における郊外住宅地の形成史を研究しつつ、最近は電鉄会社の社史編纂にも協力。

合併は、関西私鉄全体にとってチャンスです。例えば、高速神戸でつながる線路を活かせば「阪神梅田発・高速神戸経由・阪急河原町行き」電車が運行できますよね。周遊切符と観光専用列車を組み合わせれば人気が出そうです。また、阪神西大阪線の延伸で難波と尼崎が直結されれば、名古屋から姫路までの一大ネットワークが完成します。

JRを使わずにこれだけの距離を移動できる…これを私鉄王国の復活と呼ばずして、何と呼びましょうか。

各社の展望 統合効果まだ手探り 何が変わる?どこにメリット?

両社は私鉄沿線開発のビジネスモデルを作ってきた。
統合で新しいことができるという期待がある。タイガースは重要な財産。
より大きな企業グループに支えられ、もっと強くなる。
効率化でコストを削減、安全やサービス向上につなげる。
バス路線再編は鉄道の乗客増への切り札。
百貨店はファッションの阪急、食料品の阪神とそれぞれの強みを生かす。

こんな計画も…(新聞各紙の報道より)

  • 共通定期券の利用範囲拡大やICカード活用策も検討しているが、実現には時間がかかるとの見方
  • 本格的なダイヤ改正は、2009年になるとの見込み
  • 2009年春、難波まで延伸予定の阪神西大阪線(尼崎~西九条)沿線にある塩漬け土地の開発を阪急が検討。マンション用地に?
  • 阪急が西宮北口駅南側の今津線ホームを高架化の方針。同線の終点、今津駅のすぐ近くには阪神今津駅がある。しかし「両社の線路をつなぎ、相互直通運転をする考えはない」

再録・戦後初の大手私鉄統合 阪神にナニが起きたのか!

阪神と阪急の合併話は大正から昭和初期にかけて何度か浮上しては消えていった、という。それを思わぬ形で再燃させたのが村上ファンドだった。

阪神株の大量買占めが明らかになったのは05年9月下旬。阪神幹部はそれまで、急激な株価上昇の要因はタイガース優勝の「ご祝儀」とみていたという。無防備だったわけである。

タイガース上場などの企業価値向上案を提示する村上ファンドに「魂は金で買えない」と一斉に反発するファンたち。阪神側は防衛策として京阪電鉄との統合を模索するも頓挫。直後の06年3月、統合話を持ち掛けた相手が阪急だった。ファンドとの攻防を経て、6月末、阪神・阪急双方の株主総会が統合を正式に承認。10月1日、阪急阪神ホールディングスが発足した。

戦時中に国が進めた統合政策をまぬがれ、関西の大手私鉄で唯一「純血」を守った阪神は、開業101年目にして合併を余儀なくされたのである。