マチノモノサシ no.2 低い投票率の背景
尼崎にまつわる「数」を掘り下げ、「まち」を考えてみる。
3人に2人が棄権
尼崎市長選が近い。候補者の公開討論会を知らせるチラシにこうあった。
〈「興味がない」で真の大人と言えますか?〉
けれども、ここのところ市長選の投票率は30%台が定着している。史上最年少女性市長が誕生した前回は32.25%。過去最低だった。
一般に、新住民が多い地域は投票率が低く、古くからの住民が多い地域では、地縁や候補者の身近さゆえ選挙への関心が高いといわれる。この構図は、尼崎にも当てはまるのだろうか。
前回の地域別投票率を見ると、新住民の割合が高い市北部が30.60%、かたや市南部は34.64%だった。その差4%。はっきりと関心の度合いが違うとは言いにくい。
投票しない理由は何なのだろう。
「選挙に行かない人」を対象にしたある全国アンケートでは「誰に投票して良いか分からない」「政治に興味がない」「自分の1票ごときで世の中が変わるわけがない」が上位を占めた。新聞では「だれがなっても同じ」「政治に期待していない」という常套句をよく目にする。無関心とあきらめ。有権者のそんな心情が浮かび上がる。
では、分かりやすい争点があればどうか。
新幹線「南びわ湖駅」建設の是非をめぐり3候補が争った10月22日の滋賀県栗東市長選挙は63.93%を記録。前回を11.98ポイントも上回った。有権者に何を問う選挙なのか動機付けできれば、効果は期待できそうだ。
しかし残念ながら、尼崎市長選には今のところ新駅建設のような具体的な争点はない。代わりに、逼迫した財政の中で、絡み合う課題のどこに重点を置き、どこから取り組むか。「財政再建」や「教育改革」という言葉が踊るが、正直見えにくいのが現状だ。
尼崎など地方選挙の動向を長年見守ってきた新聞記者は「投票率は民意を測るものさし。たとえ白紙であっても投票することが大事」と話す。市選挙管理委員会では、ポスターやティッシュを配って投票を呼びかけるとともに、期日前投票や不在者投票などを勧めている。「前回を下回る事態だけは避けたい」というのが胸の内だ。
一方で、「棄権も一つの意思表示だ」という意見もある。
ある行政マンが、米国の経済学者ティボーの「足による投票」という論を教えてくれた。「住民は自己の選好を満足させてくれる自治体に住むことを望み、そうでない自治体からは離れることにより、意思を表明する」。この考え方によると、棄権者は、現状に満足している「保守層」の反映といえなくもない。尼崎では、市外の高校に進学する生徒が多いのもまた、足による投票といえるだろうか。
しかし―
選挙制度がある以上、行政サービスや暮らしの声は、今のところ投票で届けるしかない。現状に満足か、そうでないかは別にして、投票行動は行政への期待感だ。「投票率はまちの株価」という見方もある。尼崎の株価が今問われている。 ■尼崎南部再生研究室