ツクラナイマチヅクリ 第10回 山形県酒田中町商店街

新たに施設などを作らずに、地域の資源を上手く活用したまちづくりを紹介。

商店街から生まれたアイドルユニット

SHIP(しっぷ)
左から、かおりん、れっぴぃ、あいぴょん、りり、の4人組アイドルユニット。

地方の商店街と聞けば元気が無いものの代名詞となりつつあり、まぁ人がいないんだろうな、との素直な感想を誰もが持ちます。当然商店街側だってそのままで良いとは思っているはずもなく努力するわけで、多額のお金でハコモノをつくってはいるのですがあえなく撃沈、という悲しい出来事が各地で量産されている今日この頃、みなさん如何お過ごしでしょうか。

と、こう続いたとなると「山形県酒田市の中町商店街」と聞いてどんな印象を持つでしょう。実は知っている人の間では超有名な街。なんとこの商店街から生まれたアイドルグループがいるんです。

「酒田発アイドル育成プロジェクト」。略してSHIP(しっぷ)。メンバーは地元の女子高生4人組。01年の酒田どんしゃん祭りでのオーディションで選ばれた立派なアイドルグループです。厳しいレッスンを経てCDデビューし、ミニコンサートも開きます。ただし、メンバーはあくまでボランティアで、学業最優先。活動場所も酒田市内が中心で、コンサートのMCでは酒田中町商店街をしっかりPRします。まさに現実感のある商店街のマスコットキャラクター。

酒田どんしゃんまつりでのイベント風景

その彼女らをサポートしているのが商店街で、メイクは美容室、衣装は洋品店、ポスター撮影はカメラ店というように、各店がボランティアでサポート。商店街を歩けば、各店オリジナルのSHIPグッズが売っているのです。お茶屋さんではSHIPティー、文具屋さんではSHIPメモ帳、バーではSHIPカクテルというように…。

さっそく地元の「酒田どんしゃん祭り」にSHIPが登場すると聞き見にいってみたら、既に開演前から数十人のファンがカメラをかまえてスタンバイ。聞けば、みなさん首都圏等からやってきているとのこと。当然泊まりですし、生活用品も酒田で買うので、地域にしっかりお金を落としてくれているのです。地域の経済活動において「外貨」をかせぐのが如何に大変かはみなさんご存じのことでしょう。10分ほど待ちやっと登場した彼女らのステージは、歌もダンスも本格的で、驚がく。商店街が片手間にやっているのでは、との最初持っていたイメージはどこかにふっとびました。

みなさん、アイドルだからといって食わず嫌いは早計。地域振興の観点から真面目に分析してみると、

  1. 地域外からの可処分所得の高い顧客の獲得を実現できていること(観光産業以外では難しいです)
  2. アイドルというソフトをキラーコンテンツに据えていることで、各店舗同士の連携や商品開発において柔軟性が発揮できること
  3. ハコモノをつくることに比べ投下資本を抑制できること
  4. アイドルという素材の持つ高い情報発信力に期待できること

等が挙げられます。くだらない○○ミュージアムなどを商店街につくるよりかは、はるかに経営戦略的に優れており、地域振興策としては理にかなっています。

もっとも、このプロジェクトで一番良かったのは、SHIPを核に商店街メンバーがわいわいがやがや話す機会が増え、かつ首都圏在住男性と地方商店街という全く結びつかないであろう両者の間にネットワークができたことではないでしょうか。是非酒田に行ってみて下さい。


齊藤成人●さいとうなるひと
日本政策投資銀行 調査役