Amagasaki Meets Art その四 育てる現場に出会う

世の中に「アート/芸術」という言葉は溢れているけれど、いったいアートって何なのか?尼崎南部地域で出会ったいろんな「アート」を通して、考えてみる。

地域のリーダーを育てるプロ集団

7月の新作に向けて稽古中のピッコロ劇団

劇場や美術館は、アートに接する「はじめの第一歩」的存在となることが多い。でも、何気なく通っているその建物の意義や意味を考えてみたことはありますか?

今回出会ったのは、塚口にあるピッコロシアター(兵庫県立尼崎青少年創造劇場)。昭和49年、折からの文化行政ブームを受けて、尼崎でも勤労青少年のための福利厚生施設の整備が提案された。そこで、職場における文化活動や、終戦の混乱に伴う労働運動と表現の手段として親しまれてきた職場演劇が尼崎でも盛んだったことや、職場演劇に限らずもともと演劇活動が活発で古くから演劇祭なども催されていたこともあり、劇場を求める声が強く上がったという。

ピッコロシアター内資料室。演劇関連の蔵書は西日本随一の規模を誇る

昭和53年の開館当時、作り手や演じ手の視点に立って設計された、舞台の床面積が客席の2倍ある演劇主目的の大ホールや、固定客席がなく自由に空間づくりができる中ホールというのは画期的であった。ただ単に「観る」「観せる」だけでなく、演劇に関する文化セミナーやワークショップも定期的に行われ、未来の文化の担い手である子供向けの企画にも力を入れてきた。

そして、現状に甘んじる事なく、演劇学校と舞台技術学校も設立し、専属の県立劇団も発足させた。しかも、そのどれもが全国初というからすごい。プロの公演が行われている劇場で、授業用ではなく実際に普段使われている機材を触りながらの貴重な学習の場だ。学校はプロの養成所ではなく、あくまでもそれぞれの地域で活動できるリーダー的存在の輩出を目指している。

専属の県立ピッコロ劇団は、公演の合間をぬって、外部での演技指導・相談業務・俳優活動を行い、全国的に評価も高い。また、劇場には西日本最大級の演劇関係の資料が揃った資料室も併設されている。

ピッコロシアターは、地元・尼崎に根付いた演劇文化を牽引し、支えてきた。作り手、運び手、受け手のエネルギーがぶつかれば、必ず新しい何かが生まれる。劇場はただの「ハコ」ではなく、人々の可能性を引き出す「魔法のハコ」となる。アートは皆の協力なしには育たない。草花と同様に、種を捲き、水をやり、日光を浴びて大きくなっていく。そんな場所がもっと増えるといいのになあ。

ピッコロシアター(兵庫県立尼崎青少年創造劇場)

開館時間 9時~21時
休館日 月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)
南塚口町3-17-8 電話06-6426-1940
JR塚口駅西へ徒歩5分。県道尼崎池田線沿い


木坂 葵(きさか あおい)
1978年新潟県生まれ。アートNPO大阪アーツアポリアで、アートコーディネーターとして築港赤レンガ倉庫の現代美術プロジェクトに参加中