尼崎コレクションvol.16 《明治6年の英文京都ガイドブック》

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

前号のこのコーナーで紹介した「大物遺跡出土の経石」は、「2012年NHK大河ドラマ50年特別展 平清盛」に出品され、全国各地の博物館・美術館で一般公開されました。今年のNHK大河ドラマは新島八重を主人公にした「八重の桜」ですので、主な舞台は会津と京都ということになりますから、おそらく尼崎は全く登場しないでしょう。が、しかし…今年の「NHK大河ドラマ特別展 八重の桜」にも、尼崎市教育委員会が所蔵する資料が出品されているのです。それも7点も。

ドラマでは西島秀俊さんが演じている八重の兄・山本覚馬は、1868(慶応4)年の鳥羽・伏見の戦いに敗れ薩摩藩に幽閉されますが、解放された後1870(明治3)年に京都府顧問に迎えられ、明治初期の京都府の勧業・経済政策に中心的役割を果たし、京都の近代化に大きく貢献しました。当時の京都は東京遷都によって首都としての地位を失ったこともあり、まちが衰退していく危機にありました。その危機を脱出するための切り札として覚馬が中心になって開催したのが、日本で最初の博覧会である「京都博覧会」でした。

悠久の都であり伝統と格式のまちである京都で、西洋から輸入されたばかりの近代化・産業化のための装置である「博覧会」が日本で最初に開催されたことは意外に思われるでしょうが、さらに意外に思われるかもしれないのが、明治初期の京都博覧会に関する資料をおそらく日本で一番数多く所蔵しているのは、実は尼崎市教育委員会だということです。なぜ…? 尼崎市教育委員会では約3700点もの「博覧会資料コレクション」を所蔵しており、その代表的な資料が明治初期の京都博覧会に関する資料と、本誌第36号の尼崎コレクションでもその1点を紹介した明治期に5回開催された内国勧業博覧会に関する資料なのです。

さて、写真で紹介したガイドブックは尼崎市教育委員会が「八重の桜」展に出品しているうちの1点で、1873(明治6)年に第2回京都博覧会が開催された際に、京都を訪れる外国人観光客のために覚馬が英文で著した京都観光ガイドブックです。英文で書かれた日本初のガイドブックであり、活版印刷で印刷された日本初のガイドブックです。このころ覚馬は盲目となっていますので、妹の八重が印刷機の活字を拾ったと伝えられています。さて、このシーン、ドラマに登場するかな?

収蔵品が各地を巡回
文化財収蔵庫

「NHK大河ドラマ展 八重の桜」江戸東京博物館(3/12~5/6)、福島県立博物館(5/17~7/3)、京都文化博物館(7/13 ~9/1)の3館を巡回して開催されます。


桃谷和則
尼崎市教育委員会学芸員 1、2月だけで小学校18校が文化財収蔵庫に来館。1500人の小学3年生を相手しました。