尼崎コレクションvol.13《凡天堂病院の看板(ぼんてんどうびょういんのかんばん)》

尼崎市内に現存している逸品を専門家が徹底解説。あまりお目にかかれない貴重なお宝が歴史を物語る。

『三丁目の夕日』の世界

この資料は、東京オリンピックが開催された1964(昭和39)年当時、東京都港区芝西久保桜川町に所在した総合病院「凡天堂病院」の玄関横に設置されていた木製の看板です。相当な年月、屋外に設置されていたためか文字のかすれや雨だれの跡が見受けられます。凡天堂病院の建物は、大きなひさしと時計台を上部に有する玄関を中心に、左右対称に建てられた鉄筋コンクリート造3階建ての重厚かつモダンな建物です。

と、ここまで書いてお気づきの方もおられるでしょうが、この凡天堂病院とは、1月21日から全国公開されている映画「ALWAYS三丁目の夕日‘64」に登場する、森山未來さん演じる菊池医師が勤務している病院のことです。ですので、この看板は映画の撮影用に製作された小道具で、文字のかすれも雨だれの跡も、風合いを感じさせるためにわざとこのように製作されたものなのです。

ではなぜ、この映画の小道具の看板を文化財収蔵庫が収蔵しているかと言うと、この凡天堂病院としてロケが行われたのが実は文化財収蔵庫の建物であったからなのです。ロケは昨年3月5日に行われ、文化財収蔵庫では、凡天堂病院の玄関を出た菊池医師がタクシーに乗り込むシーンと、鈴木オートの一人息子の鈴木一平君が通う高校の音楽室で、鈴木一平君が組んだバンド「サンシャインブラザーズ」がベンチャーズを演奏するシーンが撮影されました。

そして、ロケ終了後に、小道具を担当された責任者の方にお願いをして、文化財収蔵庫でのロケで使用した小道具一式を寄付していただきました。制作会社にとっては撮影が終れば廃棄してしまう小道具であっても、こちらにとっては国民的映画のロケが尼崎の文化財収蔵庫で行われたことを記念し、歴史に残すための貴重な資料になるのと考えたのです。でも、2、3年後にもう一度、凡天堂病院としてこの看板を玄関横に立てる日が来ないかなとの期待も少し持っています。

三丁目の夕日「ロケ小道具展」

3/5~4/27の期間、音楽室として撮影されたガイダンス室を、ロケ時の様子を再現して公開。月・祝休館。午前10時~午後4時。入館無料。TEL:06-6489-9801文化財収蔵庫


桃谷和則
尼崎市教育委員会学芸員 「ALWAYS三丁目の夕日ロケ小道具展」の次は「建築家村野藤吾と尼崎展」を担当します。