特報!世界の代打王が尼崎にいた。

代打ホームラン27本。球史に輝く世界記録の持ち主は、なんと尼崎にいる。元阪急ブレーブスの背番号25、高井保弘さん(65)。現在はJR立花駅前のビルに警備員として勤務する。ここぞという場面に登場し、ゆっくり打席に向かう太めの姿は、1970年代の阪急黄金期を知る世代ならご記憶だろう。偉大なる記録は、徹底した観察と緻密な分析、膨大なデータの蓄積から生まれたという。

「例えば投手が構えた時、手首に微妙なシワができると速い真っすぐ。ボールを握る手にグッと力が入るんやね。シワが消えれば変化球。セットポジションでも、球種によってグラブの先が微妙に上向き・中向き・下向きに変わるとかね、必ず癖がある。18.44m先のマウンドを必死で見てたね」

グラブから出た人差し指の動き。アンダーシャツの袖の位置。足の揃え方。体の向き。出番を待ちながら、あらゆる投手の癖を見極め、メモしつつ頭に叩き込んでいった。

「打席へゆっくり歩いたのは癖を思い出してたから。そこに風向きや試合の進行、投手のコンディション、捕手の性格とかを考え合わせて勝負球を絞るんですわ」

愛媛県出身。1964年に阪急入団、82年に引退。通算代打本塁打のほか、パリーグ記録のシーズン最多代打本塁打(6本)も。

圧倒的な勝負強さは数々の伝説を生んだ。74年のオールスターで王選手からMVPを奪い取った代打逆転サヨナラ弾。南海にいた江夏を打ち砕き、捕手のノムさんを「なんで分かったんや」と悔しがらせた一発。打席に向かう前、「お前ら帰る準備しとけや」と同僚に告げ、本当に勝負を決めてしまった予告サヨナラ打。パ・リーグのDH制は高井さんの打力を生かすべく導入されたともいわれる。

一振りに賭けた「世界の代打王」の信条は、準備・集中力・自信・一番(だと信じること)。「どの仕事にも通じるよ」という言葉はプロの誇りに満ちていた。